揺らぐ幻影


「ぽこりん亭主関白じゃないし」

「じゃ結衣かかあ天下」

「したら向こうドM? やだ引く」

メルヘンなお菓子作りには似合わないガチャついた爆笑が起こる。


お箸をバチに見立てお皿を叩く即興そのもの、その場でしか生まれないやりとりが常習で、

いつも笑いの沸点が低いと言われるが、ぷんぷんしているよりニコニコしていたい。


結衣らの会話には決まってネタがあり、口にすることすべてに笑いを絡める癖がある。

もしかすると、オチがない話、『今日は靴を買いに行ったのにサイズがなくて残念』云々、

長々報告日記を朗読されても、

聞き手としては相槌に困り、めり張りがないと退屈だという点を配慮した上での発言ならば、

その対人スキルは拍手ものである。

しかし、二人のそれは無意識で、単純に面白い事を披露したいだけだ。


恐妻家キャラで一儲けなんて絶妙な単語を選ぶあたり、愛美のギャグセンは高く、

このままだと目尻に皺ができそうだ。

笑い皺でもアンチエイジングをする人が意外とたくさん居るらしく、

結衣の母親が当て嵌まり、通販番組を真剣に見ている。

綺麗でありたいという気持ちだとしても、

こうして友人と談笑した歴史を誇りにできるお婆ちゃんになりたい。


雑談とは正反対、可愛らしいケーキは温めておいたオーブンにお任せして、一先ず休憩をすることにした。

当然、恋の話が開催される。

立ちっ放しで疲れたので、お昼寝用ラグに遠慮なく寝転ぶと、

洗顔する時に使うクリップで束ねた髪が軽く握れる程度、ふかふかな布の上に零れた。


「彼氏感激?」

「ヒデキじゃないし古いし」

向き合う二人は仰向けのまま至近距離でお喋りを始めた。

床暖房のように下から包み込むまどかな笑いが恋人なら、キスの一つでもしそうなまったり感が漂っている。

結衣の恋愛質問攻めに唇だけで笑う愛美は大人っぽく、

余裕がある感じが羨ましかった。


彼氏が居るか居ないかだと、きっと視界が変わる。

片思いだけで、こんなに別世界――恋人が住む国はどんな風景なのか。

昼間に星を観測できるくらいに、

路地裏や地下道さえキラキラ宝石を集めた輝きに満ち溢れているに違いない。