揺らぐ幻影

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不快な音を立てて透き通った側面にへばり付いていく固体と液体の中間なものを擬音で説明するなら、

ぐちゃぐちゃ、ドロドロと言ったところだ。


「なんかグロ」

「やば、魔女じゃん汚濁」

せっかくの休日だというのに、土曜の昼下がりは相変わらず北風が暴れており、

乾燥した空気が夜中に労ってあげた肌を剥いていくばかりで、乙女たちは困ったものだ。


普通な日もバレンタインの予行練習となれば華やかしい特別な日に、

カレンダーにはハートを書きたくなる一大イベントと化す。


結衣と愛美はちょうど今ミキサーにもなるツーウェイのフードプロセッサーで、

クリームチーズやバター、生クリームや砂糖、

もちろん二の腕が翌日筋肉痛になるまで細かく刻み、湯煎で溶かしたチョコレートなど、

材料を一気に混ぜているところだ。


「美味しいにおい」
「甘ー、バレンタインって感じ」

「なんか女子って感じ」
「あはは、良妻賢母ですアピール」


スクエア型耐熱皿の内側に沿うよう敷いたオーブンシートの上に、

適当な大きさに砕いたココアビスケットを土台になるよう力を加えながら詰めると、タルトの手間が省ける。


お菓子作りは女の子らしい響きだけれど、例えばクッキー。

小麦粉を振るうのは手首が疲れるし、まとめる時は腰を痛めるし、

とりあえず体力が要るし、生地を寝かせる待ち時間は退屈だし、

分量を倍にしたり計算しなきゃならないため、忍耐力を試される気がした。

それでもキッチンに漂う甘ったるい香りは幸福フレーバーで可憐。

際どい液状を流し込んで耐熱皿を机に落とし空気を抜く。


身内以外とキッチンに立つと、なんだかお料理教室のようで結衣は楽しい。

小中の家庭科の調理実習は洗い物係とコンロ係が不人気で、皆は包丁を握りたがる。

魚を捌いたり、お味噌汁を作ったりは分かるが、

サンドイッチが果たして料理になるのかと、疑問だった頃が懐かしい。

ライ麦やら米粉やら、バターやらマーガリンやら、探究すればサンドイッチも奥が深く、

カレー同様、どんなに簡単な料理でも、こだわりがあるなら腕が試される一品になるはずだ。

だから――……