揺らぐ幻影


わざとらしい先生の咳ばらいを気にすることもなく、結衣は笑顔で宣言した。

逆に大塚は意味不明だった。
選んだ方を却下されては決まりが悪いではないか。

一体何が目的で彼女は真面目に授業に取り組む自分を妨害し、わざわざ採用しない意見を尋ねたというのか。

そのような心情から不服そうに眉を寄せた隣人に、自己チューな結衣はちっとも気付かない。


  がんばろ

恋愛偏差値ゼロの少女は少年とは裏腹、彼に判断を委ねて正解だと感謝している。

そう、男子角度でウケがいい・本命らしい物を避けたかった。

キュンとしない粗品を気楽に贈りたい。


通常、登場人物の心理は風景描写に託されるらしいので、

この場合、空の感じは大塚のモヤモヤした気持ちを反映した雨雲がベストだが、

気の毒なくらい窓からは日の光が注がれていた。

バレンタインにおける複雑な乙女心が分からない――太陽にも意地悪をされてしまった幸の薄い彼は、

だから結衣に「ありがと」と言われても腑に落ちなかったのは、

やはり本人しか知らない。


何度か消された黒板には新たに知らない文字が重ねられていた。

変化を見届けた結衣は、長方形の上にある円を見守るのが使命だ。

音階がぼやけたチャイムを調音した方が良いと思っているのは、

音楽の先生と絶対音感のある用務員のおじさんくらいだろう。



「土曜日お料理教室無理ー? 四万十川お願い、わがまま女」

ぶりっ子でもなかなかしない両手を組んで神頼みをするポージングで、

結衣はうっすらピンク色をした髪の女と、ほんのり緑がかった髪の女に、バレンタインの予行練習の協力を募った。

メールのやりとりをチェックしてもらっていた携帯電話を里緒菜から返してもらう時に、

受け答えはすっかりプロ級だと褒められつつ、

バイトだからと残念そうに断られたけれど、愛美の家で二人練習することに決まった。


そんな仲良し三人組は、クラスメートから大変羨ましがられている。

奇数なのに一人溢れたりせず常に笑い合っている間柄は飾り気がなく、単純に憧れるようだ。

教室を彩るのは男女の恋愛のみならず、女同士の親友気取りごっこ。

それはまた別のお話、と濁しておこう。

…‥