フォンダンショコラとチョコレートチーズケーキ。
もし自分が男だとしても両方食べたいと思うのだけれど、
男子高生の大塚は前者を好きだと言う。
授業中ということに構う気がないのか、「ふううう〜ん」と神妙な顔で唸る結衣を笑い、
「それバレンタイン?」と、隣人は少し照れ臭そうに尋ねた。
彼は彼女同様に恋愛ビギナーで、それはそんな人でも分かることだ。
ほら。
やはり男子も女子も、この時期となれば何事もバレンタイン思考で普通だ。
ゲームセンターのぬいぐるみだってハートのプレートを持っているし、
先々月はクリスマスを謡ったコフレだって、年が明けるなりバレンタインカラーだし、
もろに和風のお饅頭屋さんだって、研究を重ねたチョコレート味を推すし、
スーパーのフラッグだって、節分からセイントバレンタインデーに変わっているし、
フリーペーパーの表紙の煽り文句だって、本命やら義理やらといった活字が並んでいるし、
正に世の中はバレンタイン一色。
昨夜の結衣のメールを、近藤だって薄っすらと二月十四日関連だと気付いたはずだ。
あんな質問、日常会話になかなかありえないではないか。
バレンタインが迫る日だからこそ生まれるやりとりなのだから、
つまり、要するに、従って、すなわち――近藤が結衣のことを大嫌いな場合、
甘いものは嫌いだと嘘を付くだろう。
本当は大好物でも断る理由として、あえて苦手だと遠回しに打つはずだ。
となれば、可能性はゼロではないはずで、
そんな心理戦の中での昨夜のメールだからこそ、必要以上に結衣を舞い上がらせる働きをしている訳だ。
嬉しい期待、楽しみな希望、彼女を幸せにさせたのは近藤でしかない。
なぜなら彼は嫌いや苦手とは言わなかった。
――このように、都合よく解釈をしたいいがかりの可能性を信じてみたくなるのは、
結衣が近藤を大好きなせいで、両思いになりたいせいだ。
相変わらず寒い毎日、風は目に見えないけれど、中庭の木々をしならせるので、間接的に確認できたような気がする。
メレンゲをゴムベラで空になすりつけたような雲、ふわふわ甘く浮かぶ妄想。
「分かった。チョコレートチーズケーキにする」



