そして驚いたのは、やはりデコレーションだ。
例によりイベント好きな結衣は、毎年本命が居なくてもバレンタインフロアを徘徊するのが好きだったため、
既製品にしろ手作りキッドにしろ、商品をくまなくチェックしてきた。
数年前から徐々に勘付いていたが、今年はとうとう爆発したらしい。
世間ではキラキラなバレンタインが推されているようだ。
明らかに製菓材料の取扱品数が増えており、
以前の飾り付けには、せいぜいチョコチップやチョコペンくらいだったが、
今はまるでビーズのような、スワロフスキーのような、そう、ネイルアートを思わせる代物揃いで、
ピンク色といえば、最後の手段、食紅がマストアイテムだった昔、
一方平成の世の中、苺パウダーをクッキーに混ぜればたちまち可愛く、
苺チョコチップをマフィンに混ぜたらたちまち愛らしく、
それらは業務用の製菓材料が揃えられたコアなお店にならあるものの、
以前なら近所のスーパーや雑貨屋にはアーモンドスライスやクランチくらいしかなかったはずが、
お手軽に揃えられるなんて、時代の嗜好が変わったとしか言えない。
そう、ピンク色やキラキラ、ハート型が定着したらしい。
先日、三人で百貨店を視察した時にも感じたが、
既製品同様に手作りレシピも見た目がお姫様ポップになったようだ。
可愛い、けど、
でも
気合いが入りすぎて、両手で掴む本の紙面が張る。
無意識に噛んだ下唇はグロスで舌先がねたつく。
女子はぷるぷるにしたいからグロスを付けるが、たいていの男子はグロスの味や感触が苦手らしい。
女子もストローに付いたり、ペットボトルに付いたり、食べちゃうので塗りたくないが、
やっぱり赤ちゃんのような唇に憧れるので、グロスはハンカチ・ティッシュ並に欠かせない。
可愛い、けど
可愛いけどー
素晴らしいレシピを前に、結衣は深く考え込む。
それは去年の夏に真っ白なワンピースを買うか迷った時にそっくりだ。
白ワンピに麦藁帽子なんて最高に草原が似合って爽やかだし、可憐な少女らしい。
しかし白は目立つので、街中で着るのはなかなか勇気がいる。
絶対に着たいのに、買えなかった。



