揺らぐ幻影


手抜きな母親を見て育ったせいか、逆に結衣はお料理が割と好きな、得意な方だと自負している。

なんて、強制されないから好きなだけで、義務とされたら嫌いだと言うタイプなのだけれど。


バレンタインデー。
中一はクラスの女子全員に手作りトリュフを配った。

中二は学年の仲良しな男子と女子に手作りモザイククッキーを配った。

中三は手作りチョコレートマフィンをクラスメート全員に配った。

――そう、田上結衣は自己満足追求型のイベント好きおままごとガールだ。

ついついお祭りに便乗し張り切ってしまう種族の人間である故に、

高一は手作りチョコをプレゼントしたい発想になったのだろう。


「……。」

表紙の色使いやフォントから予想はしていたが、

里緒菜がくれた本は愛らしいデザイン豊かな若い子向けのレシピだった。

二、三 例を挙げるなら……四角ではなくわざわざハートにした上に、チョコペンでハートのフチをなぞり、

更にキラキラのキャンディーをふりかけてある生チョコや、

表面にチョコチップがハートで埋め込んであって、豪華に金箔でそのハートを飾っているガトーショコラ、

それからハート型でピンク色のアイシングクッキーや当然ピンク色のマカロンなど、

つまり、全てのレシピがハートやらピンクやらキラキラと女の子らし過ぎた。


言い換えるなら、この本はキャピついたデコメールが広がる携帯電話のメール画面で、

デザインに凝ったレシピばかり、匠の技ならぬ乙女の技が光り過ぎている。

  、ラブリー

  ファンシープリティ

  キュート。ん。シンジくん

頭に浮かぶ単語は、本物のお花畑の住人にもってこいのイメージで、

ヒラヒラ、フリフリ、レース、刺繍、リボン、ピンク……

そんな可憐アイテムが似合うお姫様な女の子が食べるために存在するスイーツそのものだった。

味より何より見た目が天才的に星占いとか花占いを信じる少女を連想させ、

好きな食べ物を聞かれたら、古風に『苺のショートケーキ』がベストな返答だと結衣は思った。


残念なことに、彼女は姫ではなく一般人。

それも波瀾万丈美談作品は、あらすじだけでお腹いっぱいな可愛いげのない心の持ち主。

だから――