揺らぐ幻影


非言語コミュニケーションというものがあるらしい。

例えば好きと言う言葉に相手が何を語っているのか、

顔の表情や目線、抱き寄せるとか声色とか、話す速さや場所、

それらを元に人間は意味を探るらしい。

早い話、対人関係――この手のネタは里緒菜から聞いた事なので詳細は不明だけれど、

相手の感情に影響をもたらすんだとか。


メールの場合、文字以外からどうやって結衣たちは意味を探っているのだろうか。

恐らく返信時間や絵文字、改行や『笑』の使い方を用い、理解しているのだろう。

  、んー?

そもそも言葉の意図なんて、直接話していても誤解する場合があるのだ。

それをまだ行間を汲み取れるような、阿吽の呼吸が出来るような、

親密な仲ではない近藤と結衣がメールだけでコミュニケーションを図るなんて、

今思うと、結構な冒険をしているような気がした。


そう、どうやら無意識に恋愛RPGを始めていたらしい。


ダイエットネタはしつこいと自覚しているも、切り出し方が分からなくてやむを得ず打った。

それをこんな風に言われたら、勝手に舞い上がってしまう。

引き合いに出すのは世話になっておきながら無礼極まりないのだが、

もしもメールの差出人が大塚ならば、結衣は市井でも何も感じない。

ホッペが色付くことなんてない。
それが、好きとそうでないの違いだ。


鏡を覗けばハッキリと見えてくる、近藤だけが自分を支配しているのだと分かってしまう。

ホッペが教えてくれる。



  甘いの普通なんだ

  ふうん

たちまち頭の中は隙間なくハートで埋め尽くされる。

普通に考えて、いや考えなくとも年が明けての『甘いもの好き?』や、

『お菓子食べる?』なんて質問は、陳腐な愚問でしかない。

言葉の綾も知らない直球の問い掛けに等しい。

『私はあなたにバレンタインチョコをあげるつもりですが、あなたは甘いもの平気ですか』

そういう決まり文句だ。
なんなら携帯電話に予め記録されている定型文に加えるべきだ。

むしろ英語の例文も教科書に載るべきだ。

明けましておめでとうございます級の季節の言葉に匹敵する二月のベタなフレーズである。