揺らぐ幻影


女々しい自分に深いため息を零し、大塚に借りた自習プリントを結衣は遠慮なく写す。

コルクボードのような色合いの紙切れに、運動不足気味のシャープペンシルを走らせてやった。


以前は返事が貰えるまで、それこそ字の意味に忠実に携帯電話を握りしめていたが、

少しゆとりが持てているのか、実況用の子機がなくとも大丈夫になってきた。

まるで豚の生姜焼きを作る時の心理に似ていると、意味不明に例え話をしたがるのが彼女の面倒な性格だ。


何度か作ったことがあるのに、失敗したくないからいちいちタレの分量をレシピで確認するのだけれど、

いい加減雰囲気を手に覚えてほしくて、でもどこか初心は忘れたくなくて、そんな感覚が嬉しい。


愛しの人の着信音は、冬休みに上演していた映画の主題歌だ。

二枚目はさっぱり鳴かず飛ばずだったため、一発屋だと教室で噂されている。


昔からドラマの挿入歌やCMソングに抜擢された新人歌手はたくさん、

カラオケの年間チャートで上位に入り突然支持された曲は、

しかし一発屋となり消えていく場合もある。

若者の間で爆発的にヒットしたのに短期間で消滅する曲は、懐メロとなり、

一過性のブームで世間から見放され、古いと一言。終わったとされる。

しかし、懐メロには思い出がたくさんで、不意に聞くだけで当時の仲間が浮かび、

ひどく大切な曲として誰かの人生に残っていくものとなる不思議。


結衣のこれから、高校時代の記憶はセツナ系の女性シンガーが担うのだろうし、

中学時代の思い出はヒップホップのラップ曲ばかり、小学生時代の記憶は元気いっぱい文化祭風バンド曲だらけ、

時代時代に愛された歌をコンビニやプール、服屋さんやスーパーで聞いているから、

ひどく当時の日常生活にこびりついて大切な曲となるはずだ。


《いや太れ。甘いのあんま食べない。食べる時は食べる。普通。ダイエット辛いかんじ?》


受信メールを読み終わると、チークを塗りすぎた人みたいにポっとホッペが染まった。

読み手によっては甘いメール、受取側の気持ち次第で幸せになるメール。

なんて都合が良いのだろうか。

親友の彼氏に惚れて運命だ純愛だと詰め寄るくらいお天気な思考、痛い解釈をしてしまう。