苦手なバスケを頑張ったので、いつもよりお腹の減ったお昼休み、
学食組はチャイムと共に早々駆け出すので、教室にはお弁当組のみが残っていることになる。
仲良しグループごとに集まり、机を囲って食事がてら談笑をするのが日常で、
例外なく、結衣も愛美と里緒菜の三人でご飯を食べている。
黄色い鳥のキャラクターが蓋に描かれたお弁当箱は、シリコンカップで仕切られ、からあげ二つと小さめの卵焼き三つ、
ポテトサラダにオシャレ感をプラスさせ添えられたサニーレタス、ちくわの磯辺揚げなど平凡なメニューが窮屈そうに入っている。
二段タイプはなかなか居らず、女子生徒は一段のパッチン止めタイプが主流なのは何故。
「市井走るの速過ぎ」
「汗が逆に爽やか」
噂の彼の格好良さは、どんな人にもときめきを与えてしまう実力があり、
体育の余韻に浸っているせいか、友人二人が醸し出す空気はどこかうっとりとピンク色に染まっていた。
無駄に笑顔を振り撒き女子生徒に無償でサービスをする少年は、
無料提供をし過ぎで採算がとれるのかと心配される低価格が売りの大衆居酒屋並に、
経営――何かしら頑張り過ぎていやしないか心配しそうになる結衣だ。
しそうになるだけで親身になりやしない薄情者なのだけれど、そこが彼女の魅力でもある。
「でも市井シュートしないよ」
率先してボールを上手に導くも、己で得点は狙わずゴール下で必ず誰かにパスをするのが、市井雅の行動だ。
自分の疑問に頷きながら、彼にときめけない結衣はふやけたふりかけのかかったご飯を口に運ぶ。
たまにふりかけを後からかける人がいるが、冷たいご飯に馴染みにくいので、先に混ぜる派だから、
近藤洋平もそうであってほしいと妄想しながら、顎を動かした。
五つほどの島では、その風土にあった会話が繰り返される。
部活のこと、アルバイトのこと、漫画のこと……そして結衣たちの狭い島国では恋愛トークが専ら話題をさらう。
だから、愛美はサンドイッチを食べる口元を手で隠し、意味ありげにこう言った。
「何気近藤が点とるよねー」
丁寧にも同性相手に無駄なほどの妖艶な笑みを添えて、故意にコンドウという音を強調されたのが分かった。



