揺らぐ幻影


ドキドキした。
何を作るか考えただけで楽しくて、結衣の唇は弛緩しっぱなしだった。

《バレンタイン レシピ おしゃれ》と打ってみたり、

《バレンタイン レシピ 可愛い》と打ってみたり、

生チョコ、トリュフ、パウンドケーキ、マフィン、チョコレート色がたくさんだ。


小学生の頃にアルミカップに溶かしたチョコを固めただけのものを手作りだと主張する子が居て、

当時それを料理だと認めなかったけれど、今なら分かる。

あれは間違いなく手作りチョコレートだったのだ。

好きな気持ちがあるなら立派なお手製チョコに値する魔法。


  迷うな、

  ちょっと背伸びなセンス良いの……

  クッキーありきたりだし

散々悩んだ揚句、チョコレートチーズケーキかフォンダンショコラがオシャレな気がして、

二つのレシピをブックマークをしておいた。

ウキウキが止まらない。
バレンタイン、好きな人に手作りチョコ、究極にロマンチックではないか。



――とろりとしたチョコレートソース。真っ白なホイップクリームの上に反転した色が落ちていく。

くびれたグラスを着飾るのは甘いパフェだ。


「ミー、サボった」

学校帰りに本屋さんで雑誌を立ち読みするか、CD屋さんで時間を潰し、

そのままアルバイト先に向かうのが結衣のつまらない習慣だ。


注文を受けたパフェを作る背にかかったのは、鋭い言葉で、

忙しかったんだけどと、サボったことを責める口調だった。

「えっと、……」

女子大生のバイト仲間に愛美たちと遊ぶからシフトをブッチしたことを指摘され、

嘘が下手な結衣はしどろもどろする。


  、どうしよ

ソフトクリームがとけるから運べと注意され、謝罪する隙もなく早足で向かう。

意気揚々サボった癖に咎められると休むんじゃなかったと後悔する不思議。


その背に、「洋ちゃんと付き合わなきゃ怒るから」という激励が刺さった。


  !……っ

スーパーの一角にあるお遊戯コーナーのビーズに包まれて遊んでいる時の幸せな気持ちに似ている。

幸せ――だから結衣は恵まれている。

その一言に尽きる。
皆に応援してもらえる大切な恋心は、頑張るしかない。