片手では弄りにくいし、画面が見えづらい。
先生の様子を伺うと、彼は自分の教科の採点に夢中で、
こちらの監視をする気は さらさらなさそうだったため、
結局机の上に堂々とピンク色の携帯電話を出し、
結衣はレシピサイトの検索欄に《バレンタイン レシピ 本命》と打った。
一秒もしない間に、魔法のように画面が変わる。
ガトーショコラやブラウニー、チョコレートケーキなど定番のお菓子たち、
お店のような見映えの良いケーキを一眼レフで撮ったこだわりある画像が並んでいた。
近年のレシピサイトの写真は、ピントや光といった撮影時の技術的な部分以外にも、
リボンやグリーンといった小道具、それからPCで文字を入れたりといった加工が施され、
本当にどれも美味しそうで、お菓子のギフトカタログを眺めている気分になり、
作らなくても見るだけでお腹いっぱい幸せな気持ちになれる。
美味しそ
すっごい美味しそ
チョコレートは幸せの色だ。
クリームパンにストロベリーシェイクを余裕で合わせられる甘党の結衣に持ってこいのケーキたちは、
どれも巨大ワンホールだったり特大ハート型だったりで、
どうやら彼氏用レシピばかり見ていたようだ。
二人で一緒に食べるシチュエーションでしかありえない大きさは、今求めているものではない。
残念。却下。
まだ近藤と結衣は彼氏彼女でもないため、
両手で持たないといけないケーキは、いくらなんでも気合いが入り過ぎている気がしたし、
分量面から相手も消費するのに困るだろう。
凄く美味しそうだけれど、やむを得ずクリックせずに戻るボタンを押した。
カジュアルに好意が伝わるお菓子は何なのか、一生懸命考える。
こんな風にプリントを必死で解いているなら褒めてやりたいものだが、
片思い組はベクトルの方向が一つ。
矢印を辿るとそこには好きな人しかありえない。
後ろを向かないかわりに、左右にさえ目を向けやしないせいで、
いつだって前を向く。
中学の理科で習ったらしい加速度やら摩擦やら、さっぱり物理も結衣は知らない。
動き出したら止められない。
好きな人が受け止めてくれたら幸せなのだけれど……



