揺らぐ幻影


市井は恋人を大切にしていると、恋をしているからこそ分かる。

結衣に対して恋愛感情が ないと第六感で、はっきりと知っている。

恐らく、彼は結衣が自分に惚れていないため、他の女子よりも絡みやすいのだ。


――違う、結衣が友人を好きだから気にかけてくれているに決まっている。


そんな風に噂なんて信憑性に欠ける故に、

ワイドショーでズタボロに言われたブロガー犯人の真相だって誰も知らないのだ。

なんなら真実なんてないのかもしれない。


「二百十ページ第二段落に赤線ー」

表紙が天井を見ている教科書の隣には七色の玩具。

天の川のあっちとこっちのように離れている結衣と近藤を繋げる虹になってくれるのは市井の気がする。


筆記用具も出していない仮にも授業中の机、主を心配し、「田上さん赤線」と言う左の席の大塚に、

「ウケるよねー」と上の空な返事をするのは結衣で、

恋に纏わること以外には無頓着になってしまうのが、恋愛研修生の癖だ。



十分休みが始まって一分と少し、三人はカーテンに包まっていた。

教室から隔離された世界は、どこか秘密基地に似ている。

何もないのに小学生低学年の時は布に巻き付いて遊んだら居残り掃除という謎の法律があった名残か特別な場所のようで、

わくわくして面白い。


バカップルがカーテン裏でキスをしていたと、批判混じりの噂を聞いたこともある。

その時は、くだらないと、むしろ気持ち悪いと非難していたが、

もし近藤と付き合ったらと想像すれば答えは一つ。

甘く響く脈は心地良くて――


  ……。

けれど、まだ告白さえしていないのに込み入った妄想をしてしまった自分が恥ずかしく、

勝手に戸惑った結衣は窓の外に目をやった。

  、……危ないかな


立入禁止の屋上には、食堂のふきんがこれでもかというくらい干してある。

可憐な小鳥ではなく、黒々しいカラスが飛んでいる現実的な空の眺めや、

光の粒を贅沢に味わえる日なたは、冬限定の特等席だ。
きっとS席一番高いチケットだ。


ホットチョコレートに浸かっているような幸せな気分になれる。

実際はドロついて不愉快に違いないが、乙女心はいつだってお菓子の国と化す。