揺らぐ幻影




コンパスを上手く回せた時のような丸い太陽、ドライブをして窓を開けた時に受ける爽やかな風、

好きな人が居ると、普段どうでもいい情景に手を広げて感じたくなるのは何故。

外から隔離されている証拠に電化製品によって暖かさを作られた教室は、やっぱり眠気を誘う。


そんな四角い空間で唯一のパーソナルスペースとなるのは机で、

結衣のフィールドの右端に置かれているのは玩具のスプリングだ。


授業が始まる合図に八十三歩分遅れて現れた先生が、

世界史の単語が並んだ黒板を消し忘れた日直に小言を垂れる。


おもいっきりチョークの粉が充満し、霧のようになった視界が煙たい。

その度によく思うのは前列は損だということだ。

休み時間の度に毎回毎回机がざらついて雪景色。

けれど寝るなら、一番前の教卓がある真ん中の席がベストポジションだったりする周知あるある。

前に立つ先生の視界は、教室全体を見ようと後列よりに焦点が定まり、

後ろの生徒は何かしらサボる確率が高いためだろうか、ドセンターは死角となるらしく、

意外と何をしていてもバレない。


ただ、前回どこまで進んだかと不意打ちでノートを覗かれるので、

板書は毎回しっかり写さなくてはならない宿命がある。


空気の入れ換えに開け放たれた窓からは、渇いた外気が突入し、

暖房の溜まった室内を無遠慮に掻き交ぜる。



《口説かれた?笑》

振動に反応し携帯電話を開けば、里緒菜からのメールだった。

推測しなくとも、数分前に市井と話し込んでいたことを指しているのだと分かる。


ファンデーションがついたら白や暗い色は目立つのでベージュのラメ入りを選んだ膝かけとして用いているマフラーに現代武器を隠し、

授業中にも関わらず、平然とボタンを器用にいじる。


ちなみにマフラーと言えば、誰でも知っているブランドロゴ入りがマドカ高校周辺では定番だ。

お財布も同様、とりあえず名の知れた品だ。

質も分からない結衣が、ネームバリューだけで買うのはダサいと姉に文句を言われたため、

身の丈にあったものを使用中だったりする。


さて、学生時代。女子高生は悪知恵の泉だ。