揺らぐ幻影


好みは人それぞれで理由なんてない。

好きなモンは好き。
結衣が近藤を想うことと同様に、適当で普通なのだろう。


そういえば、以前愛美と里緒菜に好きな人ができたと打ち明けた時に、

結衣はまだ途中の段階だと言われた。

好む要素が今後増えていくのが当たり前だと、勝手に未来を告げられた。


いつ好きになって、何が好きで、どんなところが好きか――なんて説明できないどころか、

結衣は正直なところ自分自身を把握しきれていない。


そんな根拠のない漠然とした恋する気持ちだが、

近藤以外を好きにならないと断言できるなら立派だ。



流れ作業で口にするお味噌汁を、どうして好きになったのかなんて日本人はきっと知らない。

育ってきた中で勝手に好きになっていた。


  あー……私

  本当は、

心の中にじんわりとした温かみが広がり、恋に温度があるなら、きっと人肌だと確信した。


好きだと意識してから、本当はずっと手作りチョコを贈りたかったのかもしれない。

結衣は朧げに思った。
きっかけなんて分からない。片思いをしている内に自然とそうなっていた。


市井の髪色はミルクチョコレートを連想させるから、唇が魔法にかかる。

子供が好きな甘い味――


「手作りって男子キモイ?」

真ん丸の目はトリュフみたいだ。
近藤の目はアーモンドチョコみたいに横に鋭く長い。


もう一度、気持ち悪いかと尋ねると、真ん丸な瞳を半分にかじられ笑われた。

「嬉しいよ、頑張って。E組に居るって噂の馬鹿って田上さんのこと?

俺自称口が堅いんだ。はは。パン屋の火事が原因って本当? ロンドン橋の」

冗談と小難しいこと、ごちゃまぜな喋り方は多分 故意だ。

やっぱりと、結衣は確信した。
市井雅は田上結衣の味方だ。

補助輪なしで初めて自転車に乗るように、

どう考えても片思いをする自分を、ゴール地点で手招きしてくれている。

ちっとも手助けはしてくれないけれど、遠回しに不安を無くそうとしてくれている。



  手作りチョコ。決めた

今の結衣は今年で三番目の笑顔になるはずだ。

一番は告白をした時になるようにと、可愛らしく願おう。