揺らぐ幻影


教室に居る皆に今正に自分の噂がされていることが分かる。

なぜあの市井が雑魚キャラの結衣と話していたのか――といった内容が妥当だろう。

耳の周りを浮遊する言葉は、決して癒されるものではない。


天井に張り付いた暖房のフィルターが小刻みに音を立てる。

眠る時の秒針のように、一度気になったら耳障りだが、気にならなければ聞こえない。

噂なんて聞こうとしなければ何の意味もないのだから、動じなければいい。


憧れと好きの違いは何なのだろうか。

確かに近藤を好きだと自覚する前は、

それこそ結衣だって、市井を見ただけで友人とカッコイイと騒いでいた。


  なんで近藤くん……?

  ほんと。なんで

一体彼が彼女に何をしてくれたのだろうか。

何もしてくれた覚えはないし、実際何もないのに、なぜ好きになるのだろうか。

意味不明なのに、来年の今頃を想像すると隣に居るのは彼の不思議。


ひょっとして恋に恋するお子様なのだろうか。

恋をしている自分が好きなだけ?
否定できない気がする。

けれど、相手が違ってもさほど問題がないとは言えない。

好きな人は近藤でないと、たちまち結衣は困る。


ただ、最近の自分を好きになったことは確かだ。

頑張ることで前より自分を好きになっていて、――ならば何に頑張っているのだろう。

近藤と付き合うためか自身を高めるためか、どちらか答えが導き出せない。


  ……訳分かんない、

  無限。ループじゃんか

  恋するアタシってば頑張り屋さんっみたいな痛さ?

  アタシ大好きな自己愛オンナなんか嫌だし

自分のことなんてさらさら分析できないが、近藤を大好きなことだけは確かだ。

胸を張って好きだと言える。



末っ子みたいに、不意に頭の中に浮かんだのはチョコレートだった。

チョコレートは甘いから魅力的なのに、

どうして最近はカカオマス何%だとかで苦いものが求められるのだろう。

甘いだけでいいのに、苦さを欲しがるのは何故。

案外、恋愛もそんなものなのかもしれない。