揺らぐ幻影


斜めに入る日差しが、机や人の影をそのまま伸ばして床に描く。


少し身を乗り出した市井になぜか真っ正面から見つめられ、不覚にもミーハーな結衣はドキドキする。

真昼間の教室なのに、まるでキスをするような距離感に違和感だ。


  顔、近……、

  ふつーに困る、何この人……

異性に不慣れな乙女は瞳を動かせないでいるが、

別に彼女が言うほど至近距離な訳ではなく、

普通にファッション雑誌の縦幅くらい充分な空間があるので、

女子高生身分では微妙なことに、本当に慣れていないことが証明されてしまった。


チョコレートを食べるのが似合う綺麗な赤から紡がれるのは、

「いやいや、俺ばりばり勉強してますよ、がり勉になりたいの。あはは。

俺コスイから特待生なって無料ライフを送るんだよ、あはは。節約だよエコ」といったありきたりな男子高校生特有の砕けたお喋りだったため、

怒ってなくて良かったと再度安心した結衣は、

桃色に染まったホッペのまま時折相槌の代わりに笑った。


「田上さん知ってる? 死ぬほど頑張れば嫌いなモンとかなくなるよー、とか。あはは。

もう神憑り的に、あはは。それこそ特待生なれるくらい?、頭良いってあんたに噂されるくらい。

ノート書かない馬鹿も頭良くなるよ? 赤点、内申あるよ」


「……? は、?……あ、うん、あはは?」

何の話か理解できず、一瞬返事が遅れた。

そうだ、頭が良いとかなんとかと話題を持ち掛けたのは結衣の方だった。


完璧な笑顔を作り、なぜ懺悔しているかのように話すのか分からない。


二人に特別な感情なんてなくて、しいていうなら近藤を介して知った程度なのに、

なぜ王子様は結衣の内側を探るようにして、さらりと語るのだろうか。

頭の良くない彼女に中身が詰まった話をされたところで、

彼が望む言葉なんて選べないというのに。


本来、セオリーをなぞるなら結衣は市井に惚れるべきだ。

例えば、近藤の悩み相談をしているうちに、本当の気持ちに気付くべき展開。

しかし、ただ綺麗な顔に見惚れるのが精一杯だ。


そこに愛や恋はなく、例を挙げるなら、

国宝と言われた芸術作品を眺めてポカンとするだけの状況だ。