揺らぐ幻影


舞踏会があるなら、女子生徒はこぞってダンスの相手を申し込むだろう。

そんなことを思わずにはいられない。


そう言えば、なぜアメリカのティーンなハイスクール映画には、

毎回学校主催のダンスパーティーのイベントがあるのだろうか。

たいてい最後は二人が踊ってフロアの皆が大注目の中、チューして両思いで終わりだ。

めちゃくちゃ羨ましい、と結衣は思う。


映画はあまり見ないからあらすじしか聞いていないので、『サスペンス映画の連続殺人鬼は味方だと思った警察官』くらいに、

彼女が言う『ダンスパーティー両思い説』は信憑性に欠けるのだけれど。



文化祭と体育祭くらいしか大きな行事がないこの学校にも、

是非ダンスパーティーを盛り込んでほしい。

そうしたら、ドレス姿に大変身!ラッキーチャンスでグっと二人の距離が近付くだろうに。


ここは日本で、現代社会、お城もなければ金髪碧眼でもないけれど、

市井雅には、やはり王子様という単語が似合うと感じた。


「ありがとう、懐かしかった」

彼からでろんと渡されたのは、偶然奇遇作戦の玩具スプリングだ。


どうやら用事はこれを返すことだったようで、

そのため、ありがとうと受け取れば、それ以上会話はないと思ったのだが、

「世界史してた? あ、ちょっとE組かなり遅いね。俺らのクラスここ先週した。

わっけわっかんないよなぁ苦手、あの産業革命やらなんやらペストやらなんやら火事やらなんやら」と、

普通に友人と立ち話をするていで、彼はお喋りを始めてしまっている。


ペラペラと教科書をめくる指先は綺麗で、

自分の手にはない筋や節がデコボコとあって男らしい。

それでいて繊細で柔らかな手に、つい重ねてしまいたくなる。


  手タレ……、

  きれい

  どんな風に彼女、触るんだろ

  優しそ

妄想の終わりを誰か結衣に教えてほしい。