揺らぐ幻影


風力に量があるなら重たいのだろうか。物理が苦手な結衣にはよく分からない。

今日は普段より風が強いので、白い塊が東へ流れていくスピードが速い。


空の観察ができるのは、授業中にぼんやりとしているからで、

机に伏せているため、廊下を隔てた窓から遠くの青を眺めることが可能なだけだ。


このように、サボっているせいで彼女は授業についていけていないが、

テストには捨て枠といって赤点四十点をぎりぎり確保できるよう、

比較的簡単な選択問題やワード埋め問題が用意されている故に、

なんとか切り抜けることができているなんとも勘が冴える人間だ。


  眠たーい……

  バイト暇かなぁ今日……トイレ当番っけ

  、ゴミ捨てっけ? ……ねむ

中学で微かに習ったらしいカタカナと、

今、教科書に並んでいる模様が記憶と一致することはない。


二時間目の授業は部屋が湯上がりのように良い感じにあったまるので、

眠たくて眠たくてしょうがない。


髪の毛が腕に当たってこそばゆいが、払うことさえ面倒だ。

ヘアパックの効果はあるのだろうかと、結衣は意識がそれる。

キープ剤をがっちり振り掛けているので、毛先の潤いは不確かである。


しばらくするとチャイムが鳴り、授業が終わってもぼんやりと放心していると、

コンコンと軽いノック音がした。


「わっ?」

廊下側の窓の隙間がゆっくりと開き、

そこに現れたのは殿茶の色をした髪の愛い男の子だ。


彼が現れると眠気なんて吹っ飛んでいき、

虹がかかったかのように目の前がキラキラと輝き出す。


「市井くん、おはよ」

普段、女同士の時は男子を呼び捨てにする癖に、本人にはクン付けをする不思議。

男子も同様、中学はお互い呼び捨てだったのに高校生になるとサン付けへ変化する謎。


きゃあっとクラスの女子が甲高い声を出し、たちまち部屋中が騒がしくなる。


  ……なんだろ

このような過剰に人気のある彼が、結衣ごときに何用だろうか。

女の子の目を惑わす学年の王子様に、戸惑いながらも社交的の性か微笑んでいた。