揺らぐ幻影




底が見えないくらいに濁った乳白色の一面は波打ちながら跳ねる。

四十三度の温かいお風呂の中はぽかぽかして気持ちが良い。


割高なヘアパックを馴染ませ、櫛で梳いた髪をラップで巻き、蒸しタオルで包む。

これは奥に教えてもらったヘアケア方法だ。


女子高生は教室のカリスマ的存在の友人に憧れを持ち、

(カリスマと言う単語は一時期死語だったはずだが蘇ったらしい)、

クラスメートの枠から一つ飛び抜けたセンスある子の美術や技を習い、そのまま模範する節がある。


それは口コミが大好きな年代のせいか、

『目が大きいA組のナントカさんが使ってるアイライナー』、

『髪の綺麗な先輩が使っているトリートメント』といった噂が、

ある地域で一気に広がるため、

マドカ高校最寄のドラッグストアでは、何かが爆発的に突然売り切れになったりする。

学校によって人気の品や愛用される品が違う不思議。


自分がコスメを真似をされたら嫌なのに、『参考にする』と言って、可愛い子の真似をする矛盾は誰も知らない。


  ふー……

鼻の下までお湯に浸かり、ぶくぶくと泡を立てながら、結衣は物思いに耽っていた。

高級ブランド、そこそこ名の知れたロゴ、有名ショコラティエの一品、たくさんあった。

びっくりするくらいの種類だけれど、

どれもピンと来なかったので、せっかく見に行ったのに今日は収穫がなかった。


自分に買いたいと思うのだが、好きな人にあげるならと考えた場合、いまいちだった。


たかがバレンタイン、されどバレンタイン。バレンタイン様だ。




「チェーン店じゃない地元密着的な、なんかあんま有名じゃないケーキ屋さんのが……いいかなー、とか」

一人で限界を感じた結衣は、お風呂に携帯電話を持ち込んで話し込む。

反響した声は篭っていて、小学生の子供が話すのったりとしたトーンに感じた。


彼女が指すのは個人経営のお菓子屋さんで、

その手のタイプのお店のバレンタイン菓子は、手作り感のある優しいラッピングが可愛いし、

決して気取ってなくて、大量生産らしさがない代わりに温かみがあるし、

結衣的に恋を演出するには調度いい見た目の気がした。