揺らぐ幻影


甘い香りはふわふわしていてファンタジックにもかかわらず、

結衣は中学生の時に友人たちとチョコレートフォンデュパーティーをした際に、

唐揚げやビーフジャーキーを放り込んだ若気の至りを思い出してしまった。

スタッフで美味しく食べました、とはいかなかった。


「可愛いー」
「かわいー」
「かわいいー」

入口の端から順番に見ることにした彼女たちには、

目に入る物全てに可愛いと唱えないといけない掟があるのかと疑うくらい、

ひたすら可愛い可愛いと連呼していた。


高級そうな格式高いチョコや、デコレーションの可愛い姫っぽいチョコ、

モダンでセンスのいいチョコや、シンプルでクールなチョコ、

色々と店によってセールスポイントが異なるらしい。


ケースだけでも丸や四角、三角錐や楕円、筒型やキャンディー、様々な形があり、

またラッピングもリボンを贅沢に用いたものや、スワロフスキーのオシャレなもの、

至って簡素なものやブランド名を大々的にアピールしたもの、

こだわりがそれぞれ違い、全て個性的で魅力的で買い占めたくなる。


だから自分へのご褒美チョコと言う風習が定着したのだろうと勝手に解釈した。



「かわいいー美味しいです」
「あっまーい自分に欲しい」
「めっちゃ美味しいです」

販売員のお姉さんから試食をもらっての感想は単純だ。

可愛いの代わりは美味しいと言う単語で済ませる不思議。


どうしてお菓子屋さんのお姉さんは、皆ふんわりと可愛らしいのだろうか。

真っ白なエプロンが似合うし、前髪を帽子に入れているのに可愛い。


いつもケーキ屋さんに行った時は、お姉さんと目が合うとドキっとしてしまい、

新作をあれこれ食べてみたいのに、ショーケース前でうだうだ悩むのが悪い気がして、

結局ゆっくり選べなくて、ついつい毎回食べるお馴染みのケーキばかり買ってしまう結衣だ。


  あま……

美味しくて甘くて、――だからよく恋愛はチョコレートに纏わる例えが多いのだろう。


男が女を舐めるように見るというゲスな言葉があるように、

結衣は執拗にチョコレート達を見続けた。

後十秒すれば、きっと視線で溶けるに違いない。