揺らぐ幻影


どうせならチョコの下見をしようと、

フードコートの奥にあるスーパー側に組まれたバレンタイン催しコーナーを見ようと言う里緒菜の意見ではなく、

恋愛知識のある愛美に従う形で、三人はわざわざ百貨店へと移動することにした。


とりあえず主要な駅前には若者向けのファッションビルや、

老舗の百貨店といった商業施設がいくつも密集している。

なので、とりあえず中心地にさえ行けば簡単に何でも揃う昨今だ。

その一方で昔ながらの個人店は衰退してしまい、

またチェーン店だと代わり映えがしないし、懐古的な気持ちに結衣は胸が軽く痛くなる。


そんな時代を生きる現役女子高生三人組は、バレンタインフロアを見渡していた。

地下に入っている店も七階に出展しているようで、つまり七階でことが足りるらしい。

便利だけれど、最近は便利過ぎて悲しいなと――なんて懐古すると話は永遠と続くので切り上げよう。


平日の放課後だからか、予想よりも割とお客が少ない。

土日は完売御礼のライブハウス並にぎちぎちに人間で溢れ、全ての見本を確認することは困難だ。

人混みを掻き分けてやっとこさお目当てのコーナー前に辿り着いたとしても、

人に押されてショーケースにひっつく形になるので、商品を見渡せない。


また姉から聞いた話では、バレンタイン二日前から当日にかけての平日の昼間は地獄らしい。

ランチ終わりのOLさんがお財布片手に足りない義理チョコを買うので、土日さながら込み合っているそうだ。


「かーわいいー」

「欲しい、可愛い可愛すぎる」

「やっばい可愛い!」

品のある百貨店には、キャッキャッと騒ぐポップなはしゃぎ声が馴染まない。

どこでもかしこでも大声を出そうが なあなあに許されるのは 女子高生の特権である。

そう、溌剌とした制服パワーは無敵で、人生において素晴らしい時間だったと言えるだろう。

泣いて笑って、嘘ついたり過ちをおかしたり、なんでもかんでも真剣で――大人が買えない戻れない青春感に溢れた唯一の時だ。