揺らぐ幻影


そんな結衣は、愛美と里緒菜を弁護士さんのように信頼しきっているので、

バレンタインに自分はどう出るのがベストなのかと尋ねた。

いちいちマニュアルがないと動けない彼女は、ここぞとばかりに友人に甘える。


「駄菓子系チョコはNGの方で」

「ウケ狙ったバラエティーチョコも禁止だから」

カラオケオールの明け方に見られる上擦ったテンションで、

ノリ良くバレンタインの決まり事をあれこれ立案していく。


つまり敏腕弁護士な親友たちが言うには、スーパーで百円を出してお釣りがくるお手軽なチョコや、

雑貨屋さんに売られているお酒やお薬をパロっているユニークなチョコは渡したらいけないそうだ。


バレンタイン、女の子なら本来奥ゆかしくはにかみながら進める話題――

例えば、『彼ったら甘いもの好きなのかな〜』、『ドキドキするね』、

『結衣ちゃんから貰えるならきっと彼も喜んでくれるよ〜』といった友情的な流れ――を、

あえてガサツにぞんざいに扱う訳は、

「えー、えー……うえーどおしよおー」と、膝から下をバタバタと動かし、

頭を振るお子様な結衣の悩み事を軽くしてやるためだろう。


暖房で汗をかいたコップは真ん丸な円を机にかたどる。

不況だからか、飲み物はお冷やだけではなく、

コーヒーやソフトドリンクのタダが当たり前になっている謎。


そんな平成の世の中、どんな情報でもインターネットで検索をかければ、

おおよそのことを容易に手に入れることができるとはいえ、

恋に慣れた人も義理チョコを買う人も、いざとなると困惑するだろう。

なぜなら、最近のバレンタインチョコのバリエーションの数ったらない。


誰が買うのかと言うくらい、過剰在庫にならないのかと心配になるくらい、

ところ狭しと、どこのお店もチョコレートで溢れかえっているのだ。

たちまちお菓子の国に迷い込んだように、目移りばかりしてしまう。

あら、結衣はなんてメルヘンなのだろうか。