揺らぐ幻影


そして ふと思った。

二人に出会ってからというもの、結衣は泣いたり嫌な顔をしたり、

怒ったり苛々したり凹んだりする負の感情を生産していない気がする。


赤点を取って課題に終われた時は、『逆に凄い』とわざと褒め、

アルバイトで会計ミスをして凹んだ時は、『そろばん通いなよ』と皮肉を言われ、

前髪を切りすぎて嫌な気分だった時は、『斬新! 最先端』とおちょくってくれて、

いつも愛美と里緒菜は適当に笑い飛ばしてくれる。


他の女子グループは仲間割れをしたり、イザコザが生じたりしているが、

なぜだか結衣たち三人にはそれがない。


そんな笑って冗談ばかり言い合う関係は、ひどく貴重なものだと感じた。

なぜなら、例えば『うざい』というネガティブな言葉は、

仲良くない人に告げられたら悲しいし、悪口になるけれど、

仲の良い間柄で言い合う際には負の要素はゼロで、

むしろ言われたら侮辱されればされる程、最高に美味しいフレーズだ。


マイナス単語でイジられてナンボ、愛があるから笑いに繋がるネタ。

従って、結衣たち三人の中でウザイは最高の褒め言葉となり、

相手が傷付かない絶妙な信頼関係が成立しているからこそ言えるので、

言われた方は『バレてたの?』と、おどけたらいいだけな訳で、

仲良しだから冗談が通じて、仲が良くないと冗談はただの厭味で終わる。


そして愛美、里緒菜、結衣たちは女子高生らしく悩み相談で絆を深めるよりは、

相手のツボに沿ったトークを披露することが趣味な珍奇集団のようだ。


  私ってラッキーガール、みたいな

  恵まれてる、

  愛美と里緒菜と友達なんだもん……

  ラッキーだよね


目の前の二人の性格というかノリというか、雰囲気に感謝して、結衣はお水を三口含んだ。



――……もしかしたら彼女は天使級に素直な性格なのかもしれない。

なぜなら類は友を呼ぶのだから本人だって……しかし、彼女は良い意味でおバカさんなので自分については気付かない。


うやむやで曖昧な友情と見せかけて、ガッツリ繋がっている三人組は恋愛作戦にぬかりはない。