揺らぐ幻影


おかしな顔を作る結衣に対抗し、鼻の穴を広げて付けまつ毛が外れる勢いで目を見開き、

眉毛をハの字にして変な顔をしながら里緒菜は唇を動かした。


「全然きもくないってー正常だってー問題ないよーむしろ普通だってー」

それもわざと茶化すように語尾を大袈裟に伸ばして言うのだ。


引かれると思っていた不安が薄らいでいくのが結衣は分かる。

雲がかかった空を全部消し去る新鮮な風は、どこ発信なのだろうか。


「……本当? なあなあじゃなく?」

  チョコとか気持ち悪くない?

  好きとか、感情って向こうからしたらゾゾゾじゃん

  好きじゃない人に好かれたら困るんじゃないの……?

  チョコ……とか

  、普通に重くない?


もし自分が男だとして、一方的に想いを寄せられたらどう感じるのだろうか。

嬉しいのだろうか、気色悪いと引くのだろうか。


幼児向けのヒーローみたいに顔が取り替えられるならば、

奥のような非の打ち所がない顔になりたいと結衣は思った。

とびきり可愛い顔の子に好かれるなら、近藤だってまんざらでもないだろうに。


  ……ん〜?

  それって私が人を外見で選ぶってこと?

椅子の座面を掴み、身体を横に揺すって結衣は考え込んだ。


――さて、この手の悩みはいくら考えたところで、架空に過ぎなくて、

自分が彼になれる訳ではないのだから答えは無限で、きりがない。

導き出すことは不可能なのに、しつこく悩んでしまうのが片思いの決まりごとだ。


そう、無意味なことに壮絶な意味がある気がしてしまう面倒臭い性分になる。

例えば、毎回同じ時間にレジをしているスーパーのアルバイトの女の子は、

毎回自分の買い物を袋に詰めてくれる。自分に気があるのではないか――と言った勘違い男のように。


単純にパンとジュース一本で少ないため、袋に入れてくれているだけなのに、

なんでもかんでも意味を作る片思い組だ。


そんなこんなで、バレンタインのチョコには男子の想像を絶する女子の暇な妄想が詰まっている訳だ。