揺らぐ幻影


それこそ結衣たち三人は、女子高生が得意とする真剣な会話を良くも悪くもしたためしがない。

あえて悩み相談に毒を混ぜたり、シリアスな話に時事ネタを絡めて皮肉を言ったり、

そうやって茶化すせいで常に笑顔が耐えない輪郭がぶれた関係だ。


従って、結衣のバレンタインにチョコを渡すという古風な発言に対し、

『頑張ってね』『応援するよ』等、手をとって友情風に感動したり励ましたりはしない。


そんな二人だからこそ、引かれると考えていた予想とは違い、いつも通りだった。


「告白は、分かんないけど。とりあえずチョコ! あげたいなぁ……って、とか、昭和に、乙女にきもく、ドン引き?」と、

自分の女の子らしい発想に戸惑う結衣に、

「いやいやキモくないって。イベントに乗っかるのはミーハーな日本人の心だから」

「結衣もバレンタインソングの新曲リリースしなよ」

と言った具合に、感動を笑いにして伝えてくれる。


ゆるゆるぐずぐずなお喋りの流れが、青春にオシャレなクラスメートとは異なる結衣たちの日常だ。

なんにでも胸に響くガチな会話はいまどきナンセンスで、

小説的な、ドラマチックな、映画風な、漫画的なやりとりは、

読んだり見たりするには楽しいが、

自分たちの日常には馴染まないと、それが女子高生のリアルだと結衣は思っている。


バレンタインまでまだ二週間以上もあるのに緊張でガッチガチになっている心を、

友人二人は呆気なくさりげなく、尚且つ素早くほぐしてくれた。


「、はあ……、なんか、きもくない? 私自分こんなきしょかったかなって、重たいし……なんか引くくない?」

照れ臭いのを隠すため、下唇を裏返して眉毛を左右非対照に吊り上げ、

あえて結衣は不細工な表情を作った。


メニューパネルには季節限定のチョコレート特集がでかでかと組まれている。

セルフコーナーのお水に並んだ中学生たちや重たい荷物に疲れたお年寄り、

幼稚園の子供を連れた主婦や暇潰しのサラリーマン、

たくさんの人を休憩させてくれる場所は賑やかだ。


さて、たくさんの人が過ごすマドカ高校の中、出会えた少年少女に意味はあるのだろうか。