揺らぐ幻影


昨日と今日、どちらが彼に近付いたかなんて、わざわざ考えなくても分かる。

冗談だっておてのもの、相変わらず胸はドクドクして脈に負担をかけているけれど、

やっとまともに会話が成立するようになったのはたった今だ。


「知らないだろ? 図書館て本以外に紙芝居あるんだからな?」

「いやいや知ってるから、近藤くんお子ちゃまだから借りるんでしょ?」

「バレた? そうなんだよー、俺じいさん役とばあさん役の声ん使い分け半端ないから。プロよプロ、はは」


悪戯に笑う彼の表情一つでドキドキドキドキ。掠れた声にドキドキドキドキ。

こんなにも面白おかしく話をする人だということを、

結衣以外の女子は知っているのだろうか。

自分だけが知っている一面なら良いのにと願ったのは秘密だ。


そして廊下の距離は変わらないのに、このまま永久に続けばいいと願う。

……それも内緒。
だって、ちょっと乙女チックすぎるから、キャラではない。



好きな男の子が話をしてくれたなら、頷くだけで幸せなのが恋する女の子だ。


タイルの升目は均等に並ぶ。
小股で踏んで一歩でも先に進むのが惜しいったらない。


「てか結衣ってばギャグセン高いのにかーわいーんだよーキュンだよ、あはは」

田上結衣持ち上げ野次を飛ばす愛美は、合間合間に可愛いとか面白いとか褒めの言葉を挟んだ。


その都度、市井がおかしそうに笑っていたけれど、この場に居る者は誰もそれに気付いていやしなかった。

理由は作戦に夢中だからだ。


好きになって良かった。
ただそれだけを毎日確認できることが、結衣は馬鹿なので嬉しい。



バイバイを終えて教室に入るなり、

「結衣やったじゃん、話せた話せた! メールも良い感じだし」と、

過剰にお褒めの言葉を頂き、熱い抱擁を受ける。

永遠の別れから奇跡の再会を果たしたような力強さは、

友人からの愛を感じるには十分だった。

不安なのは結衣だけではなく、協力してくれる愛美も緊張してくれていたのだろう。

そんな優しさを感じ取り、言葉にしない代わりに同じように抱き返しながら、

「早く彼女になりたい!」と、結衣は決意表明をした。


判定は、とびきりの笑顔。