結衣の瞳の中に近藤が居る違和感はないように思う。
口さえ動かせば会話は生まれるのだから、お喋りをしなくてはならない。
「髪、変じゃない、いい感じ、全然似合う」
全然には『〜ない』しか括られないのか、全然に『〜ある』が馴染むのはおかしいのか、
どちらが正しいのか、文法的な難しいことはよく分からない。
ただ、近藤が好きなことだけは分かる。
なんて可愛らしい思考なのだろうか。
「いやいやいやーもうテンション下がるから。見なよ雅ずるくね? 特待生は茶髪でもスルーとかヒキョいーよなー」
近藤に不満そうな視線を送られ、
「俺は特別に優待される生徒ですし」と、肩を竦めるのは彼の友人だ。
確かにトーンで見れば近藤の方は染色しているとはいえ、
限りなく黒に近い赤茶色は控えめなダークカラーで、むしろ許容範囲だろうに、
それにひきかえ市井は確実に染めている色味で、近藤よりも遥かに明るいのに、
時に不正が働き、違反者が免れることもある。
なんせ市井は進学コースよりも頭が良いのだから、
学校的にはご機嫌取りをしてとりあえず偏差値なりなんなり上げてほしいようだ。
また、中学生の頃は髪の毛の色は明るければ明るい程イケてると言う価値観が教室に馴染んでいたが、
逆にそれは似合っていないとただダサい象徴でしかないことが高校生になって変わった。
そんなゆるい闇を笑いながら、――……結衣は不思議だった。
市井雅は背が高く顔もカッコ可愛くて、愛想も良いし頭も良くてスポーツ万能な上に、
服飾コースとは関係ないコンペで賞をとれる才能も実績もあり、性格も良く、
おまけに実家はお金持ちらしい。
正に将来有望で現代版・王子様と言った印象だ。
そんな彼はいつも女子に熱い視線を送られているにも関わらず、派手な女遊びなんてしない。
となると、王子様のような市井に愛される女の子は、必然的にお姫様になるだろう。
結婚するなら おおよその女は彼を選ぶに違いない。
以前、遊びに市井だと言っていたが、実際 愛美や里緒菜だって二つ返事だろう。
だから――
……なんで私って近藤くんなんだろ
なんで市井じゃないんだろ、?



