揺らぐ幻影


「お姉ちゃん美少女ー、静香ちゃん見たって」という里緒菜や、「不公平に美人過ぎ、市井にそっくり」という愛美の聴覚で集めた音に、

「市井魔性ー」と、結衣は適当に応答した。

なぜなら最高に神経を注いでいる視覚では、ばっちりと違う人を追っていて、

無関心な会話になんぞ構っている暇がなかったからだ。


友情よりも好きな人に夢中になってしまう。

暗めの髪は微妙に赤茶色に染められ、子供みたいな寝癖風にパーマをあてているのが派手過ぎずにちょうど可愛い。

ふにゃっとした束感ある前髪は気持ち斜めに分けられており、ちらりと左のおでこが覗く。

ちなみに引き算が得意なのか、染めてなさそうに感じる自然なカラーが結衣的にオシャレポイントだ。


――これまた詳細な見た目について述べるが、彼は特別な人なので斜め読みは許されない。


涙袋たっぷりの中心に寄った真ん丸な目は妙に愛らしいし、

少しだけ白い肌、横顔が際立つ高い鼻、常にきゅっと口角が持ち上がっている薄い唇、全部に恋愛マジックが働き好感が持てる。

中でも、たまに髪の毛から覗く前に立った耳が一番好きだ。


華奢なようで、うっすらと筋肉がある細身だからだろう、彼は制服を着こなすのが上手で、

カッコ可愛い透明感のある人――評価されるべき少年があまり話題にならないのは、

爆発的人気のある市井雅の影になるせいでもあり、

一番手に比べ背があまり高くないせいでもあり、

澄ました見た目が華やか過ぎて、近寄りがたい印象を持たれるせいでもあるのだろう。

とりあえずイメージはミルクティー。

  かっこいいなー

  かっこいい

近藤洋平だけをしっかりと目で追うと、見ているだけで胸が締め付けられる。なぜか泣きたくなる。

――なんてのは冗談で、単純に好きで好きで仕方がない。気持ち悪いくらい結衣は彼が好きだ。


冬だというのに身体はおかしなくらいぽかぽか発熱している。

なんだか恋はエネルギーになるような気がして、

太陽光パネルに匹敵する新しいエコな発電方法になるはずだと、

女子高生クオリティーらしいことを結衣は思った。

ネットに潜る真ん丸なボールは、逆再生すれば近藤洋平の手にあったものだと知っている。