揺らぐ幻影


そう、まるで恋愛中は乙女心の専属クリエーターだ。

好きだと告白したがる自分もいるし、

好きだと言わずに捻りを入れて告白したがる自分もいて、引くぐらいロマンチストになる。


恋をしたら矛盾だらけ、あっちに行ったりこっちに行ったり……まるで玩具の車だ。

市井の手にあるそれは、いつどこに向かうのだろう。


「あはは、妄想。めちゃくちゃ大事にするって基準が謎だよね。ウケる。

美人ってどのレベル? 俺の彼女、うちのガッコで誰か見たことあるの?」

「ありませーん」と、近藤が小学生を真似て言うので、結衣も隣りで「ありませーん」と報告した。


ゆるゆるな空気が嬉しくて、愛美と里緒菜にもう一度感謝した。

二人が居てくれなかったら、今はないのだから。


「そうです、あやふやです。あはは。ほんと噂話は気にしなくていいと思うよ。ほんと妄想十割。

しかも俺、普通に性格悪いよ、お腹空いてると苛々してね、ご飯?、机ひっくり返したことあるから。普通に。あはは」

歌詞カードのように手元に原稿がないので、言葉の裏を探るのが間に合わない。

だから結衣には笑い話にしか捉えることができない。


ただ、さっきの迷子になった子供みたいな笑顔の残りなんてなくて、

今微笑んでいる彼は凛々しくて十六歳に見えなくて――大人の男の顔をしていて――女を守る男の顔をしていて――

お姫様はどんな人なのか想像すると、なんだかこそばゆかった。

お似合いなのだろうなと考えると、絵本を読み終わった時のように満足した結衣は、

「はい先生、噂話は気にしません!」と、

頬を持ち上げ冗談めかして笑った。


王子様は笑顔であるものなのだと感心した。
お姫様が悪者に狙われることが定番のように、お決まりのパターンが望ましい。


冷たかった床は白い足から体温が移り、生暖かく肌を伝う。

今のこの感覚――冬の残りはいつまで感じることができるのだろうか。

春になれば二年生。
その時、どんな人が周りに居るのだろう。

楽しみのような、怖いような。
明るい気がするのは、自意識過剰なのだろうか。