揺らぐ幻影


詩的な発想をしちゃった自分が痛くて恥ずかしい。

それはさておき、ただ近藤は市井を好きなのだろうと気付けたのは収穫だった。

結衣が愛美と里緒菜を好きなように、大事な友人がいると妄想すれば、ちょっと嬉しかった。


『黒く染めてます』とか、『化粧してません』とか、安っぽい雑談が紛れている感じこそ、

彼女が求める安いスクールライフだ。

二回連続の再検査組は悪質だと体育館の後ろに集められているが、

彼らは遺憾の意を表明しまくっている。

天井で光る偽装太陽が二回点滅した。それが冷たい空気を暖めることはない。


「……、」

そもそも、どう考えても恋人の居る市井の恋愛事情を聞くには経験値不足な気がして、

とりあえず笑ったまま結衣は話の先を待った。


  ……恋バナ向いてないんだよね

付き合ったことがないので、クラスメートのカップルの甘い話を聞いても相槌が打てないし、

また悩み相談にアドバイスが出来ないのが悩みでもある。


真ん丸の目は童話のお姫様のように可愛らしくて、

市井には笑みしか似合わない、彼は高校で一人は居る定番の王子様キャラだ。


「で。今みたいな意味不明な語りを人に言ったの田上さんが初めてな訳よ。

なー? 洋平だって知らないのに、なんでそんな俺の彼女の噂があるの? 謎くない?」


言われてみればそうなのかもしれない。

先程のような胡散臭い台詞めいた発言をしたのが今回が初なら、

「だから市井はカノジョを溺愛してるとか。噂とかね、アテにならないじゃんね。彼女の情報源は何?」という質問に、

「さあ、あほの妄想、?」としか、結衣は返せなかった。


近藤に毒舌だと笑われて、彼女は気分が良くなった。


従って、市井が彼女とやたら強調し紡ぐ真意や含みを察する気もなかった。

そう、行間を読まずに、悲しいは悲しい、嬉しいは嬉しいと思う少女には奥ゆかしい意図なんて分かるはずもないのだ。

淡い茶色な髪はサラサラと柔らかそう。せいぜい感想はそのくらいだ。


  ……、

けれど恋愛見習いの結衣も、ここまで来ればさすがにあることには勘付く。

市井雅は田上結衣が近藤洋平を好きなことを知っているのだと。