「市井雅には美人で年上のラブラブな彼女がいてー、市井雅は王子様ー、
あと何だっけ、……市井雅は彼女を溺愛する男、結婚するなら市井雅ー……だっけ?」
……、は?
いきなり自分自身の噂話をペラペラ語り出す少年に少女は驚いた。
女より可愛らしい丸々とした瞳が、真っ直ぐにこちらを見る。
赤ちゃんのように澄んだ白目は潔癖の象徴のようで、
彼に見つめられると嘘なんて付けない――そんな意味不明なことを思った。
市井雅に纏わる噂話なら、もちろんミーハーな結衣は知っているのだけれど、
ゴシップ好きな奴だと認識されたくないので、猫かぶりにここはしらばっくれたいところだが、
これといった妥当な答えが見つからない。
動揺がそのまま身体に現れたのか、思わずしりもちをついてしまった。
?、いた、
鈍い音を立てて一気に視界が変わる。
腰に響く痛さよりも、ありがちにパンツが見えたかもしれないと言う羞恥が大きく、
真っ赤な顔で慌ててスカートを握り直す。
同時進行でそっと様子を伺えば、二人はただびっくりしているだけだったので、
誰も喜ばないお約束は披露されていなかったようだ。
大丈夫かと言われ、本当は痛いけれど格好悪いので、必死で頭を横に振った。
「床が可哀相」と厭味を口にする市井のにこりとした笑みはどこかあどけなくて、
噂通りに彼女を本当に好きなんだと、結衣は単純に信じていた。
羨ましい
いいなぁ、
市井の恋人が羨ましかった。
愛しそうに彼に想われる人はさぞ幸せなのだろう。
――いつか自分も、近藤に。
近藤洋平に自分のことを彼女として、こんな風に他人に甘く想ってほしいと、夢のようなことを思ってしまった。
夜寝る前や辛い時、彼を元気付けたり癒してあげる象徴になれたらいいのに。
――なんて冗談、彼女はそこまでロマンチストではない故に、
一万円あげるから名前を呼んでほしいと企んだのは、余りに片思い乙女として残念なイマジネーションのため、秘密にしておこう。



