「はは、モテモテって逆に辛いよなー。だからオモチャで遊ばせてやって、彼はブロークンハーツ?、傷付いてるから? あはは」
何もわだかまりなくごく自然に好きな人と冗談交えてスムーズに、
尚且つ理想的なゆるい会話が弾んでいるのに、
結衣は膝を軽く折っただけで、腰掛けられずにいる。
ぎゅっとスカートの裾を引っ張った。
大好きな人の茶色い目がこちらを見ている。
抵抗なく受け入れられているのだから、ここはしゃがむのがベストだとない頭でも分かる。
しかし悲しいかな、女子高生。
ここで同じ輪に集ってしまうと、今度ばかりは『E組の女が近藤を狙っている』と、
本当の噂をされるのではないかという不安が過ぎったためだ。
学生時代は少し立ち話をする程度で、ほんの少し仲良くなるだけで、
すぐに『好きなんだ』とか『狙っている』とか、後ろ指をさされてしまいがちで、
くだらないと思うけれど、何故か色恋はすぐに嘲笑の的にされてしまうから、
恋愛ビギナーの結衣は、風聞を気にせず堂々と片思いをする自信がないのだ。
くたびれた体育館にすき間風が吹いて香水を放流させる。
窓に嵌められている鉄格子は軟弱に錆びている。
学年集会は皆が居る。
ただでさえ人気者の市井に視線を送る女子生徒は多い。
今、何か勘繰られたりなんかすれば、結衣の初恋は強制終了だ。
彼女は教室で生活していて、学校が居場所の半分を占めていて、
先の展開を察すると、あまり幸せな未来がないことが容易に浮かぶ。
……。
やはりこの場を去ろうと決めた。
玩具は後で返してと言えば、もう一度絡めるチャンスになるではないか。
この際何事もプラスに、だからバイバイの判断は間違いにはならないだろうと結衣は決め込んだ。
噂は勘弁だし。
風説で恋路を壊されたくない、恋愛研修生にとって他人の目ほど怖いことはない。
「えっと、モテると評価される市井くん。それ後で返してくれたらいいか――」と、
結衣なりに編み出した得策を口にしたのと同時に、三流のミラクルが起こった。



