考えてみよう、クラスメートの男子と結衣の関係を掘り下げてみよう。
笑わせる自虐ネタもウケ狙いの冗談も、いつも饒舌に話しているというのに、
近藤を前にすれば何故か極端に異性を意識しまくりで、
会話のテンポどころか、まず舌が動かないのだ。
こんなはずではないのに。
お話が出来ないのなら時間が勿体ない、まだまだ無言の会話を出来るような仲ではない。
つまり沈黙は沈黙だ。
それ以外の何ににもならないどころか、面白みに欠ける女だと今に田上結衣の評価が彼の中で落ちてしまう。
アピールする場面で爪痕を遺せなくては、好感度アップ云々よりも、
恋愛対象外の底辺にランクインしてしまうだけだ。
なんかネタないっけ、なんかないっけ
なんか話すことないっけ、なんか……
なんか閃いてよ
手の平に戻ってきた車を軽く握る。指先から伝わる冷たい塊。
焦れば焦る程、緊張しかしない身体が欝陶しいったらない。
どうにも沈黙を埋める言葉が浮かばないので、退散しようかと思った時、
「おはよう田上さん」と市井の声がし、反射的におはようと返すと――
貸してと一言、返事をする前にクマの車をさらわれた。
その拍子に触れた手は男らしい温もりがあって、手の平が空になる。
ピンク色の車が右手と左手を行ったり来たり、市井が子供のように遊び出してしまっていた。
……――それを取りに来たのだから、それがないと自分のクラスの列に戻れない。
目的のものは鈍い音を立てながら動いていて、操縦士は楽しそうにしていて、
取り上げるのも悪い気がした。
どうしよう
市井ってばタイミング悪
このまま彼が遊びに飽きるまでここに居座るべきなのか、
あるいは貸してあげて元の場所に戻るべきなのか、いつも愛美や里緒菜を頼ってばかりだったので、
自分が今なにをすれば最善に繋がるのか、結衣はたった二択を選べやしない。
優柔不断な気質はなかったのに、恋愛が絡むと右か左さえ混乱してしまうなんて、
恋は病という言葉の発案者に拍手を送りたい。



