揺らぐ幻影


  本当、偶然。

  ……さすが里緒菜さま


奇遇にも近藤のところでに車が止まった。
高校生らしく無免許の癖に運転が上手な不思議。


幸福値が三百だ。
愛美が取り出した玩具の車は、偶然奇遇作戦のアイテムだったのだと理解する。

そして心の中でありがとうと友人二人に感謝をした。


「ごめん、暴走運転したみたい」

大好きなふわふわした髪の人のところへと、明後日の方向に進んだクマの車を迎えに行く。


「俺の爪と事故ったから、速やかに保険会社に連絡して」

冗談を交え、悪戯に唇を持ち上げる近藤の笑顔に胸が高鳴る。

笑い顔一つで耳の裏まで真っ赤に染まり、

ときめきが身体を巡るのだから恋愛中の女子は大変だ。


  こんな笑い方、

  するんだ……

カッコイイと言ったら軽いけれど、本当に恋心を鷲掴みにする笑顔はかっこよくて困ってしまう。


「あはは、事故?」

彼女と彼はジョークを言える間柄になれたのだろうか。

他人行儀な壁はなくなったのだろうか。

相関図に何か接点は書かれているのだろうか。

矢印にハートマークまでは欲張らないから、同級生くらいは書かれているのだろうか。


『けん引きする』や『民事しよう』くらい言いたいのだが、笑ってオウム返し。


場繋ぎの半笑い以上の会話を生むのは、メールとは違って難しい。

どうして好きな人を前にすると語彙が乏しく、持ち札がゼロになるのだろうか。


掴みはオッケーなTVの話がある、タイムリーな頭髪検査の話がある、

それさえ頭に浮かびやしないなんて、どれだけつまらない人間なのか。

第一、結衣は大人しいキャラではないのだから、余計に自分が分からない。

これがクラスメートの男子生徒ならば、ためらいなく長話ができるというのに、

一番近くに居たい好きな人は、一番遠い異性の気がした。


恋をすると自分が自分ではなくなることがもどかしい。

本当の結衣なら、あくまで女子高生レベルのユニークなお喋りで爆笑をさらう自信があるのに、

近藤のせいで唇が動かない。