揺らぐ幻影


小鳥さんまでピヨピヨと手の平に飛んできそうな世界にいる結衣は、

恋に慣れた姉からすれば、現実世界では運命なんて言葉はこじつけだと言われることを、

普段なら納得しているだが、今は世間で言われるステレオタイプな女子高生らしく、

メルヘンに詩人になってみるのも良いかなと思ったりなんかした。



ピンク色の車が行ったり来たり。メールのやりとりみたいにあっちとこっちを動く。


ぼんやりとしていると、突然悲鳴が耳の中で暴れた。

「きゃあー! っごっめん結衣姫〜!!」

謝る割には変な呼び方をしておどけてくる里緒菜は、絶対に台本をなぞっただけだ。

大根役者に「はあ? 何してんの」と、結衣は真っ赤な顔で怒鳴った。


いつの間にか愛美と交代してくれていたようで、お花畑の世界にいるとこちらの変化に気付きにくいようだ。



「足痺れたからお願い結衣」

さっきまで友人の手の届く範囲を走行していたピンク色の車は、手先が狂ったと言う通り遠くに消えていく。


「あほー里緒菜ウザ」

  わざとじゃんか

  バカ!、うざ!

女子高生が、十五歳が、いい年した女が玩具の車で遊んでいる――知的とは思えないのではないか。


「早く取りに行きなさい」

面白そうににっこりとした里緒菜の笑顔は作戦だと語っている。

そうなれば片思い師匠の手前、弟子である自分は従うしかないのだ。


偶然手を滑らせて車が向かったのは――



「も〜! むかつく」

怒りメーターの最大値が百で最小値がゼロならば、マイナス百を示しているはずた。

そう、言葉の割に結衣は ちっともご立腹ではないのだから、彼女はまあまあ嘘つきだ。


「きらいー怒った」なんて、少女はきっちり脚本通りに言葉を発しているつもりらしいのだけれど、

白々しい演技は客席もドン引きなクオリティーなんだとか。