車を弄ぶ愛美にご機嫌かと尋ねられ、少女は笑顔で三回頷いた。
ご機嫌でしょだってぽこりん、
嫌がられてないんだなぁって……
メール、したもんね
昨夜のやりとりを思い出すだけで結衣は幸せでいっぱいだった。
自由にお花畑の世界と、こちら側を行き来できるようになったくらい恋愛に夢中だ。
角なくふにゃりと柔らかく笑う恋する乙女に、愛美は一瞬固まった。
入学式したてと比べ、好きな人ができた友人はどんどん可愛くなるばかりだと思う。
本当に別人だ。
恋をしたら女の子がキラキラ変身する迷信は、どうやら本当らしい。
ここに立証されているのだから驚きである。
小崎里緒菜、田上結衣、山瀬愛美。
出席番号順で並びバラバラだから、最初は愛美が、
入れ代わりに里緒菜がチェックを済んだら結衣のところに来てくれることになった。
鈍い音を立てて薄汚れた茶色の床を車が走る。
愛美とニ人キャッチしあう遊びをして笑いあっていたら、結衣の番になった。
「おー? 田上は目の回りが黒くないか?」
さすがのおじいちゃんも気付くレベルで、お化粧が濃かったらしい。
確かに彼女の目元は至近距離で見ると、なかなかパンチが効いている作品だ。
伊達眼鏡ごしに力強く反論するとみせかけて、
「錯覚ですよ?」
生徒に甘い先生なので、結衣はヘラヘラ笑いながら茶化しておいた。
そんな校則違反生徒を前に、孫と接するようにして穏やかなやりとりが続く。
「いつも髪はくるっくるじゃなかったかな?」
「あれは寝癖ですー昨日はちゃんと乾かしたんです、あはは」
聞き飽きた言い訳だと笑い、おじいちゃん先生は彼女をチェックすることなく次の生徒へ移った。
すぐさま伊達眼鏡を外したのは言うまでもない。
良かった
引っ掛からなかった
甘い甘い先生は、結衣のような生徒が選ぶ好きな教師ランキング第一位に違いない。
情けないのではなく、仲良しなのだと主張するのが駄目っ子さんの特徴だ。



