揺らぐ幻影


私語だらけのざわついた体育館には、不自然に黒い頭が不揃いにうごめいている。

『黒染めした』を名言と勘違いしているのか、やたら悪アピールをする痛い生徒がいるのも教室あるある。


  あ、今回はイケる

クラスの先頭に居る担当の先生を見て、結衣はほっとした。

E組をチェックするのは、生徒からおじいちゃんと呼ばれている縁側と盆栽が似合うお歳を召した先生で、

彼ならお化粧や、その場凌ぎの黒スプレーを見破るスキルがないため、

違反の基準がゆるくなる。

結衣を始めE組の生徒は歓喜と安堵の声を漏らした。


しかしD組の担当は学年主任の厳しい先生でブーイングが起こっていた。

若さへのひがみか分からないが、とにかく鋭い。

例えば透明のマスカラやつめ磨きさえ見逃さずに とことん否定するのだ。

彼女が担当の時の結衣は、『先生によってオッケーなんてずるい、他のクラスと平等に統一してよ』と、不満に感じるので、

自分はまだ子供だと反省した。


学生ビジョンで魔の時間が始まると、出席番号順に並べられた生徒は前から順に抗議の嵐で、

これでは外の吹き荒れる風と、どちらがうるさいのか分からないくらいだ。

なんて若いのだろうか。
この痛さが卒業した途端非常に懐かしく、切なくて堪らなくなるなんて、

現役女子高生の結衣はまだ知らない。


「見てー、ブーブー」

「っうわ、めっちゃ狙ったアイテムじゃんか!」

ポッケから自慢げに愛美が取り出したのは、

地面につけたまま手前にひいて離したら前に進むという玩具の車で、

童心をくすぐるソレは夏くらいから流行り出したクマのイラストがついていた。


一つのキャラクターが巷で爆発的に人気が出るのは、

放課後に女子高生が必ず足を運ぶ雑貨兼コスメショップが店頭にコーナーを組むからで、

それが火付け役となっているのではないだろうか。

ミーハーな皆が立ち寄る場所に、さも大人気とばかりに扱われると、

自分も乗っかってしまうのがティーンの可愛さだ。