揺らぐ幻影




E組の結衣は服飾コースのF組と体育が合同なので、運動は嫌いだが体育の授業は大好きだった。


「市井のバスケ、ストーカーしよ」

「お前に決めるゼ、みたいな、古っ」

「うっわ、ドン引きだってば」

手早く更衣室で体操服に着替え彼女たちは、体育館でだらだらと準備体操中だ。


長ズボンを短パンに切ったのが流行なので、もちろん三人は切っりっぱなしにしている抹茶色のジャージの上下をだぼだぼと着て、

ブレスレットが見えるように、結衣は腕まくりをしていた。

女子高生レベルは着こなし方で判断されると考える低レベルな思想がらしいと言えよう。


柵越しに覗く青空には煎れたてのカプチーノをすくった泡にそっくりな雲が、バタフライをする勢いで泳いでいる。

どうやら外は風が強いらしい。
ホットコーヒーを差し入れしてあげたい善意があるけれど、

利己的な結衣は屋内授業で良かったとほっとして終わった。


狭い敷地は二面しかない上に、三年生とも合同なので替わり番こに試合をする為、

休憩の時はF組の近藤を含む女子混合の半分と、

自分のクラスの男子が試合をしているのを見ることになる。

愛美や里緒菜の手前、面目上は市井の観察だけど、結衣は近藤を拝む行為に一生懸命だ。


バスケのルールは正直よく分からない。
ただ高いネットに入ったらいいとだけ覚えている。


ここだけの話、――どうでもいいトークになるのだが、結衣はスポーツに情熱を捧げられる人は凄いと思っている。

疲れて限界を決めるのは己なのだから、それを耐えて頑張れる根性は尊敬するしかない。

シャトルランは一桁でギブアップするタイプのヘタレな自分ならすぐにリタイアすると胸を張って言えるからだ。


こんな性格のせいか、スポーツをすることを目的に建てられた場所に居るのは場違いな気がしてならない。

コートを仕切ってあるネット、得点ボード、足元の窓、暗幕、校歌の板、舞台……

小学校も中学校も高校も、差ほど体育館の構造に変化が見られない。


それなのに、何故こんなにも景色が違って見えるのか。


  近藤くんどこかな

熱のこもった視線はある一人をとらえるなり、結衣の安い心臓はドリブル並に騒がしくなった。