揺らぐ幻影


《サラダ食べてカツ丼半分残した笑。田上さん細くね? ダイエット関係ないって。昼は母さんの気分次第?》


  あ、良かった…

母親のことを『母さん』と言う部分に好感度が軒並み上がった。

というのも、高校生になるとマザコンの予防線か、

母親をお袋と、父親を親父と呼び代えるクラスメートの男子たちが、

なんだか結衣はそれが照れ臭く、またママっ子も微妙なので、

お袋やお母さんではなく、『母さん』と口にする近藤にキュンとなった。

ほら、どうでもいいことが幸せ発見ポイントだ。


《そこはがっつり食べようよ笑。うわ、社交辞令完璧ですね、出世しますよ笑。男子でお弁当って恥ずかしい?》

《いやいや華奢。普通に痩せない方が良い。誠実な僕はヨイショじゃなく事実しか述べませんから笑。分かる、弁当って若干マザコン臭い笑。母上たぶん栄養士だから高校までは弁当派で許して下さい笑》


じわじわと甘さに侵されて骨なんてきっと茹だっている。蒸気だって出ていそうだ。

  ずるい……

こんな長文やりとりは、彼が故意に駆け引きをしてくれているのではと錯覚してしまう。

『ダイエットをしない方が良い』なんて、彼好みの女の子になることを許されているような、

甘い思わせぶりなメールをわざと打ってくれているような気になる。

舞い上がってしまいそうになるから怖い。


それは危険だ。
だから結衣は必死で言い聞かせる。

なぜなら高校生男子となれば、両思いにならなくとも、それなりに恋愛をしてきているため、

リップサービスで少しくらい女を喜ばす扱いを知っているはずだ。

つまり、調子に乗ると勘違いのままに失敗するのだから、女子はいちいちときめき過ぎてはいけない。


《羨まし。じゃあ料理上手は親子遺伝じゃん。私もチューボー習わなきゃ笑》

《大丈夫だって、パフェの達人。笑》

“笑”のついたメールが嬉しくて、笑いの数だけ口角が一ミリずつ持ち上がる気がした。

他者目線だと笑いどころがないやりとりも、雰囲気が合うなら笑える点になる不思議。


恋心に浮かれる結衣のまつ毛が寝かせられる。

カーテンの奥にはキラキラ流れ星が一つ、彼女を応援するように夜空を踊っていた。


…‥