揺らぐ幻影


ゼンマイの玩具みたいに徐々に距離を縮めたらいい。

焦らずマイペースに足踏みをするような幅で進めばいい。

たまに被害者面をして静止するだろうが、

今日のように友人たちがゼンマイをまいてくれるだろうから、

ゆっくりゆっくり、積極的に前に進めばいい。


《孤独だったんで助かりました笑》

見た瞬間、飛び込んできた短文に悲しんだけれど、

中身を見れば、数分前より親しくなったからこその文体だったから、そんな感情はたちまちゼロになった。


甘い気持ちはメロンソーダーだ。
色のせいで身体に悪いかと躊躇うけれど、口に含んだら甘くておかわりをしたくなる。

恋はドキドキして心臓に悪いけれど、彼を想うとひどく甘い。

少し前はデザートをスイーツと呼んで、ならば次はなんと呼ぶのだろうか。

恋の幸せはふわふわしていて食べたらきっと甘くて、皆が笑顔になる。


《私最近ダイエット。お昼は買う派? 食堂派?》
この調子で本当は恋愛チックな内容にしたかったけれど、

駆け引きが苦手な結衣は早々に引き、かなり女度の低いゆるやかな内容を送った。


  ほのぼの頑張ろ

  女オンナしてもキャラじゃないし

先程のような好意を絡めた時と今のような友人のノリの差が、一般的に言う駆け引きになることを知らないのは、

彼女が一生懸命に頑張っているからで、計算をするゆとりがないせいだ。

そう、無自覚な術策は恋愛ビギナーにしかできない神業である。


そんな自分の隠れた天然魔性気質には気付かず、結衣は呑気に携帯電話を握りしめた。

たかがメールにあれこれ考えると従来の内容が途端に重たくなり、

なんでもない文章でさえ送り辛くなる心理は、片思い組の悩みの七不思議の一つだ。

どうして好きな人に限っては、言葉の一言一言に壮大な意味が生まれるのだろうか。

近藤には『おはよう』も『好きな映画なに?』も、『嫌いな食べ物は?』なんてどうでもいいことが、

どうでもよくない、全然よくない。聞けないし尊い日本語たちになる。

近藤は特別で近藤がおかしい。