揺らぐ幻影


  あー、なんて打とう

  、なんか

必死なあまり携帯電話を掴み過ぎて手汗をかいてしまいそうだ。


頑張り過ぎてがっつくと、彼からすれば重たいし、とことん引かれるだろう。

だから結衣はしっかりと落ち着き、無難にライトな内容を心がけなくてはならない。


《やばいから、ウケる。服コって何してんの? もうすぐテスト、やだな》

相変わらず絵文字は当たり障りないシンプルな物が並んでいるので、

第三者が見れば業務連絡一斉送信メールだと思いかねないが、

絵文字やデコメールを大量に使ういかにもな行為は、

女友達にさえ普段使用しないしキャピキャピして張り切っていると判断されたくないので、やはりできなかった。


ハートの一つやニつ、中学生の頃は男子に対して何の気無しに送っているのだが、

例えばクラスメートの子に『明日宿題見せて』にハート十連続や、

『テスト範囲教えて』をハートで囲ったりの、無意味なハートでさえ、

好きな人にだと途端に渋る。


恐らくそれは絵文字のハートではなく、

本物のハートを大事にしたいせいなのかもしれないと結衣は思った。

好きなハートはメールではなく直接渡したい。

そもそもアナログな彼女は携帯電話で繋がりを確認するような可憐乙女にはなりたくなかった。


《基礎? 素材の知識とか型とか当然デザインも。俺も謎、笑。 夏休み宿題で浴衣作った。テストやばいよ、俺五十番内じゃないとバイト禁止。いいコ笑。田上さん頭いい?》


《凄い、本格的! じゃあ今のとこ五十番内なんだ。凄い。私は中間下くらい、中途半端なバカ頑張ります》


どうやら近藤は見た目も良し運動神経も良し、センスも良くて頭も良いらしい。

なんとも結衣とは正反対なパーフェクトボーイをますます好きになるが、

逆に自分なんかが好きでいていいのか不安になる。


彼はイケメンで才能ありあり、彼女は凡人中身からっぽ、なるほど、これは正に格差だ。

しかし片思いガールはタフであるべきで、ちょっとやそっとじゃへこたれない。

その差を埋めたいからこそ、彼に近付きたいからこそ、

もっともっと頑張ろうと思えるのだから、なんて立派な努力家なのだろう。