揺らぐ幻影




洗面所の棚の奥に隠してある姉の高いボディクリームをこっそり塗った肌はつるつるして、

鼻を近づけなくても美味しそうで、男子が振り向きたくなる豊潤な良い香りを漂わせている自信がある。

目を瞑っていたら、きっとかぷりとかじっちゃうだろうと、結衣は可愛らしいことを思った。


ここ最近ボディバターやらボディミルクやら、カタカナに洒落た響きをよく耳にする機会が増えた証拠に、

街中にはスキンケア用品を取り扱う海外ショップが軒並み乱立している。

そんな店の前を歩くと幸せな甘い香りに包まれるので、その都度女の子で良かったと感じる。


だが、お肌を労るショップが一つのファッションビルに必ず一店は構えられているという出没率の高さに、

もはや氾濫しているブランドを選ぶことで混乱するし、何が良いのか分からないし、比べる知識がないと迷うばかりだし、

たかが手の平サイズのクリームに五千円以上も出費するなんて驚愕するし、

結衣はなかなか自分で大枚叩いて買う勇気がなかった。

だからこそ、お誕生日プレゼントに貰えたら厚かましくも素直に嬉しい。


またお風呂上がりに塗っても、朝起きたら香りが飛んでしまっているので、

高い値段だからこそ、いつももったいないと残念に思ってしまう。


しかし姉の品物だと贅沢に使えた。
このような妹だから姉は普段から半ギレなのだろう。


しっとりして気持ち良いため、つい膝を擦り寄せて感触に酔ってしまう。

だから彼氏が居る子は買い物をしている時に、やたらボディケア用品を扱ったお店に入りたがるのだと判明した。

乙女チックな幸せは尽きない。

  、あまい

  美味しそ、しっとり

丁寧に美を追求すると、女の子していると堪能できるので、

これからも姉のモノを拝借しようと決めた結衣だった。


高校に上がると同時に買い替えた低いベッドに仰向けになると、携帯電話を開く。

手の平サイズのときめきが今の全てだ。

あっという間に長方形の光が、恋心すべての視覚を奪い、もうスキンケアはどうでもよくなった。