揺らぐ幻影


さっさと近藤を遊びに誘えばいいと提案されるも、思案する間もなく結衣は嫌だと断った。

摘んだ指先に油がテカったと気付くか気付かないかくらいの間合いで、

ナプキンが三枚机に並べられるさりげなさは、大人らしさの象徴だ。

  ……。

職歴や年齢以外にも、人として先輩だと感じる瞬間だったし、そんな人と仲良くしてもらえて誇らしかった。


「恥ずかしいのかー?」

「可愛いミー恥じらいミー?」

からかうように笑うニ人は当然女子高生よりも恋愛スキルが高いのだけれど、

結衣は結衣なりに想いを伝えることにした。


「だって今遊んじゃったら、もしカップルになった時に! 初デートの時? ドキドキもワクワクもないじゃないですかー」


服を選ぶのもご飯を食べるのも、予定を立てるのも、全部全部恋愛対象として彼に考えてほしい。そんな微笑ましい夢だ。

自ら持論を披露したものの急激に恥ずかしくなり、

結衣は口元のマフラーをおもいっきり払うと、ダイエット中だが午前中に疲れたのでご褒美だと、一人弁解を入れつつ、

勢いよくメロンソーダーを飲んだ。



テーブルの隅にあるお塩は適量の半分以上くらいで、

程よい隙間でナプキンはきちんと補充されて入っている。

ライバル店の方が、細かい基礎がきっちりとしている気がした。

例えば手が空いたなら従業員同士ぺちゃくちゃ話すのではなく、

役割分担されていなくともトイレの様子を見に行ったり、メニューを直して回ったり、

同じ職種だとチェックしてしまうのが人間の性だ。

恐らく先輩の二人は既に点検済みだろう。

そして、でも味はうちの系列かななんて何様目線か不明な評価を下すのが、高校生イズムだ。


賑やかな店内は教室に似ている。
若さがあり活気があり、笑顔が馴染むあたりポップだなと思う。

いつか仕事場に近藤が遊びに来てくれやしないだろうか。

制服は可愛いため、ちょっとナルシストに見せびらかしたりなんかしたい。

『ドリンクバーの券余ったから』
『同伴は社割で食べれるから』
使い古された誘い文句で彼を釣ってみたい。


誰かと居ても、すぐさま近藤のことへと染まる頭の中は、もはや病気だとしか判断できない。