揺らぐ幻影


確かに中学の時は、足の速い先輩を目で追ったこともあったし、

三ヶ月だけお願いした家庭教師の大学生の眼鏡姿にときめいたこともあったし、

小学生の頃は一番に給食をおかわりをする子にキュンとしたこともあったけれど、

今思うとただの憧れなだけで恋と呼ぶには値しない。


なぜなら、友人と遠くから見てきゃあきゃあ騒いだり、

自分の名字を入れ換えて遊ぶだけで満足だったからだからだ。

それ以上接近したいなんて発想がなく、ただカッコイイと思うだけで幸せだった。


しかし、近藤洋平の場合そうはいかない。

見ているだけなんて嫌だ。
話したいし手を繋ぎたいし彼女になりたいと思う。

  近藤くんって

  、ドキドキって全然違うもん

  ほんま不整脈だし


結衣は恋愛ビギナーだから仕方ないじゃないか。
自分が男子からすれば、どの層に需要があるのか見当も付かない。

ふんわりとした花柄のチュニックにショートパンツ、カーディガンに淡い色のシフォンワンピース、

私服は甘めな流行りの感じで、女の子らしくもブリブリし過ぎない可憐な雰囲気。

友人周りにオシャレだと言われるなら嬉しい、その程度の女子。

クラスの男子はそんな身近な存在の彼女を可愛いと思っているのだが、

自分の魅せ方を分かっていたなら、近藤洋平とお近づきになる術を所持していることになるのだけれど、

片思い乙女はあいにく高鳴る胸に手を乗せるだけで精一杯で、

女としてのアピール方法や小悪魔テクニック、そんなマニュアル、結衣にとっては机上の空論に過ぎない。


なぜなら実践する相手の性格によって対応は変わるべきなので、

恋愛初心者からすれば好きな人の傾向を知らない為ちっとも参考にならないのである。


例えば自分のことを名前で呼ぶ(“結衣は〜”)のと私とあたし、ウチ、

近藤洋平がどれを嫌悪して何を好むのかなど分からない。


ちなみに結衣が自分のことを名前で喋らないのは、似合ってないと痛いと考えているからだ。

要するに、世間ではキャラに合った子なら許されるが、勘違いサンだと相手を不快にさせることがないとは言えない為、

女子高生ルールだと無難に私をチョイスすれば問題ない。