揺らぐ幻影


一方的な恋をしていると、ただ紙風船を追いかけるだけで、

草原を近藤と走り回っている気分にもなれるし、
砂浜を近藤と駆けている気分にもなれる。

やはり片思い中の乙女は、ごっこ遊びの達人だと立証された。


スカートがめくれることも、髪がボサボサになることも気にならない。

子供のようにがむしゃらに遊びに浸る三人は、痛くも微笑ましい存在だ。

窓から入り込む風にさらわれて、童心はふわふわと舞う。
風に踊る虹色、計算は魔法だ。



「おはよー田上さん」

現実に戻す呪文に振り向けば、行方不明になった紙風船を手にした市井が居た。


  うわっ、タイミング

  なんで……

  ……あ、作戦中、か

  忘れてたけど。

結衣は見なくても分かる。服コのツートップであるふわふわした髪の友人が隣に立っているのだと。

いつから彼女はエスパーになったのだろうか。


なぜ彼がタイミングよく現れ、自分と好きな人の掛橋になってくれるのか、結衣には分からなかった。

なんとなくだが、なぜか いつも市井が近藤を連れてきてくれる。

前世があるなら、何か彼に恩をきせてやったんだろうと解釈することにした。


このように、普段から何事も深く考えないことが、長所であり短所でもある結衣の特徴だったりする。


ジャージを着こなす姿さえ格別で、少し乱れた髪の毛から衝動的に引っ張りたくなる耳が覗いて可愛い。

  あー、かっこいい

  かぁっこいい

好きな男の子を見ただけで耳まで赤くなるなんて、心の中がバレバレになる赤面症は損な気がした。

今すぐ顔面に青か緑のコントロールカラーを塗りたくりたい。


「あのっ! おは……、わ、と……、あの、おはよ、」

メールでは話せても、やはり実物への耐性が備わっていないので、

大好きな近藤に「おはよう」を貰ってからも、

おはよう以外の会話はこれといって生まれなかった。


いい加減挨拶がてら何か話ができたらいいのだが、

妄想通りにことを運べず、なかなかうまくいかないのが恋愛研修生の悩みどころだ。