揺らぐ幻影


こればっかりは仕方ない。
近藤はいい人なので、そんな人情にかける軽率なことはしないだろうと願うしかない。


  私は里緒菜も愛美にも見せちゃうけど

  ……許してね?


自分のことは置いといて。男は女のメールについて箝口令にしているはずだ。

暗黙のルールだと自分自身を洗脳して、結衣は嫌な予感を消し去った。


「てか愛美風邪ー? やっぱ流行ってんだね。お見舞い来たら怒るってメール」

数年前からインフルエンザを新型やら予防接種やらワクチンが足りないやらと、

やたらTVや新聞で見聞きする。

単純なタイプなので煽られ上手、なんとなく彼女は気をつけようと思う。


迂闊に体調を崩せば近藤に会えなくなるからだ。

ああ、なんて可愛らしい思考力なのだろう。これぞ正に片思いイズムに違いない。


冬休みにオープンしたファッションブランドのノベルティで貰ったアトマイザーを取り出した。

机にかけるショップ袋をどこの店のものを愛用しているかが、

女子高生のお友達になりたい的な判断基準だったりするんだとかの事情はさておき、

首の後ろと内ももに振りかけた。

霧のように弾ける透明の粒が綺麗で、女の子しているなと実感できる。

パイナップルの缶詰みたいな甘いシロップの香りがお気に入りだ。


奮発したので、いざという時にだけ大事に使おうと決めている。

つまり恋愛中の今こそが少女にとって『いざという時』のようだ。


「うちら体育サボろうねー」

「なんでー? 見学したら実技点ないからー、私出席点で生きてるのにー。たちまち減点されんじゃんかー」

わざと間延びして話す結衣の浮かれテンションも、風邪でダウンした愛美の話もスルーして、

里緒菜は「体育は行動しなきゃじゃん」と、偶然奇遇作戦の話を切り出した。

色々と気になる点があったにもかかわらず、ドキリと心臓が暴れる。


真剣なオーラは簡単に気合いで入手可能な便利具合が女子高生らしさだ。

北側の窓の向こうでは、小鳥が強風に煽られながら大空を飛んでいた。

行き先不明の大冒険?
いいや、ゴール地点にはあの人が居てくれると信じることが、大人が引く純愛への近道コースだ。