揺らぐ幻影


「頑張ったじゃん、いい子」

満面の笑みの里緒菜が持っているのは、結衣のピンク色の携帯電話だ。

社会人の人がプレゼンを成功させた時のような達成感に、

思わず口が綻んだ。


「ありがとーっ良かった? 素っ気なくない?」

  ……メール

  良かった、成功なんだ


安心する結衣の隣で、昨夜の片思いなやりとりをチェックし終えた里緒菜はパチンと携帯電話を畳んだ。

友人の一連の仕種を眺めてぼんやりとしていたため、

コテに挟んだままの毛先から悲惨な焼ける音がし、慌てて結衣はバネを伸ばした。

若干縮れた毛先に舌打ちしたい気持ちになる、よくある美容凡ミスだ。



たまにコテでやってしまうのは、

家を出てしばらくして、『電源切ったっけ』と不安になることだ。

近年はIHの登場でなかなか聞かなくなったが、

出先での『ガスの元栓閉めたかしら?』という疑問が、

女子高生には『コテのスイッチ切ったかしら?』という心配になるようだ。


今朝はきちんとコンセントを抜いたと思い出し、ほっとした結衣は、

なにより今そんなことを考える場合ではない。


「大丈夫大丈夫、むしろ小悪魔計算頑張った。偉いよ結衣!

だって最後向こうからメール連投じゃん?」


――――そう、片思いの研修生がしがちなのは、

このように友人に送信メールも受信メールも全て見せることだ。

点検?
それは他者からの客観的な意見を聞いて、今後の戦略を練るためである。


結衣からすれば不安だから見てもらうのだけれど、逆の立場ならばゾっとする。

考えてみてほしい。
好きな男の子が自分のメールを誰かに公開していたらと。


  やだやだやだ

  見せないでよね

  人のメール見せるとか最低だもん

近藤に向けた手紙を、軽々しく第三者に読まれたなら、それは恐怖でしかない。戦慄でしかない。

ついさっきまで朗らかだった空気が、たちまち殺伐としたように感じた。