揺らぐ幻影

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春を待っている冬の朝はつんとした空気に覆われており、外出時はなかなか厳しい。

寒いだけなら若さを武器に我慢できるが、

ローファーの中で足がカチコチに固まって痛いし、風を切る耳がヒリヒリして辛い。

とはいえ、九時を回れば比較的あたたかな日差しの恩恵を受けられるのだけれど、

あいにく登校時間には太陽の力は間に合わないようで、すこぶる冷えを耐えるしか術がない。


寒いのが嫌いな結衣にもかかわらず、今日から彼女は二十分も早く家を出るようにした。

というのも、いくら自宅で完璧にお化粧や髪を頑張って完成させたとしても、

自転車を漕ぐうちに風に煽られ、完璧ではなくなってしまうのだ。

例えばグロスのテカり具合だとかトップのボリュームだとか、

毛先のカール力だとか、とにかく学校に着く頃には劣化してしまうなんて、

てんで早起きの意味がなく、全く腑に落ちない。


なので学校に着いてからトイレで修正をするために、

睡眠時間を削って二十分も早く家を出ることにした微笑ましい結衣チャンだ。


ちなみに、進学コースのお手洗いは広くて、流し台の奥には大きな鏡と椅子まで完備されており、

まるで若者向けショッピングビルのパウダールームのように、コンセントだってあるのが、

学生格差社会の象徴だといえる。


社会人は早起きをして朝時間に資格の勉強をするらしいが、

早起きをして身嗜みに時間を費やすのが女子高生だと説いても問題ないはずだ。


トイレでたむろは美しくないので、結衣たちは進学コースのトイレをお化粧室と呼ぶ。

ランプが赤になったコテで髪を直しながら、片思い中の少女は鏡越しに里緒菜を見た。


流し台に置かれた化粧品の数々に、効果があるのかは謎だ。

いい加減、馬鹿だって気付いている。

一・二年前から黒々しい目をしたお化粧の方法から、薄い手順に移ってきていることを。

例えば透明の根元の付けまつ毛だったり、アイラインをブラウンにするだったりて、脱・濃厚顔路線だ。


しかし、情勢に逆らい、偽りを重ねるだけ好きな人に近付ける気がするのが乙女心ってもんだ。


ドキドキする心は、美容師さんがお客さんの感想を待つ瞬間のよう。