揺らぐ幻影


高校生は車がないから不便だと思った。
交通手段が少ないので、恋愛にちょっぴり痛手だ。


《分かんない、過疎? 私の家は何気に立地条件いいかも、コンビニ徒歩三分。笑》

《乗り過ごしたら一時間後とか笑、リアル田舎。田上さん都会。コンビニなんかない、これは平成の格差だな笑》


見たこともないし行ったこともないのに、たった数行の説明に想いを馳せる。

お家デートをしたいとか、自宅の中間地点はどこになるのかとか、幸せな世界は甘い妄想が作り出す。


『ドーナツ化現状だね』と打ちかけて、結衣はハっとした。

目に浮かぶのは『不動産屋のメール?』と、愛美と里緒菜が呆れている姿だ。


忘れていた。

今朝の意気込みをすぐ忘れてしまうなんて馬鹿だ。
学習能力がなさすぎではないか。


恋愛チックな内容のメールを打ちなさいと、二人にアドバイスされた。

決意した割に昨日とさほど変化のない送信メールを読み直し、自責の念にかられた。

  全然ピンクじゃない

  つまんないメール

  “笑”が笑えないし

  つっまんない


《ドーナツ化ですね笑。そういえば私とメールして彼女とか平気?》


ボスンと携帯電話をたたき付けると、一回跳ねてストラップが揺れ毛布の中に隠れて消えた。

極端な心臓に合わせて肩が上がりそうだ。


  ……、信じらんない

  なんか、

  私ってば……きもち悪い、?

  なに、やってんだろ


彼女とかのトカに、他に何があるというのだろう。

恥ずかしくて堪らない、結衣は唇を強く噛んでどうにか羞恥心を抑えた。

古臭い尋ね方が恥ずかしいけれど、遠回しかつ近道に頑張ったほうだ。

これは里緒菜や愛美も褒めてくれるだろう。


甘ったるいココナッツの香りが漂う空気が時計の針に絡み付き、

一秒一秒をゆっくり進ませているような気さえした。

彼は結衣の時間を操る人となった。


お願いだから、なんでもいいから、適当でいいから、とにかく返事がほしい。
どうかこのメールに温度差を感じないでほしい。

彼女のように、一秒が三十秒、十分、二時間にも感じることが、片思いの初期症状だ。