揺らぐ幻影


たかが疑問形のハテナ付き文章を送ってくれるだけで、

送信者が思わないくらい幸せがって舞い上がるのが受信者だ。


  メールたるいなら質問文打たないよね?

  大丈夫大丈夫、大丈夫

ほっと一安心する。
安堵の息はふわふわと口周りに浮かんで、それをまた吸い込むので、胸が温かくなる。


恐らく近藤は深く考えずに、コンビニ店員がお弁当を買ったお客に箸が何膳必要かを尋ねるくらいのマニュアル感で指を動かしているのだろうが、

恋する乙女としては、いちいち特別な理由を付けて解釈をしてしまう。


嫌いではないからメールをしてくれるのだと。

好きや嫌いの前に特別な感情を持たれてないというのに、おかしな意訳なら得意だ。


  ……中央か

結衣は自転車で通学三十分足らずだけれど、どうやら近藤の住まいは相当遠いらしい。

だとしたら付き合ってからが大変だ。

女子高生みたいに不意に会いたいと思っても夜中に近所の公園で待ち合わせなんてできないし、

デートや学校帰りに気楽に送ってくれることなんて不可能じゃないか。

彼女の家から最寄駅は歩いて五分で、彼の家に行くには何分かかって何円かかるのだろう。


  あーあ、遠いと不便、

  終電何時だろ……

  いちいち交通費かかるな、痛いな

  せめてチャリで五十分以内が良かったな


ほら、妄想だけで何時間でも潰せる。

この想像力を何か仕事に活かせればいいのだが、あいにく自己満足で終わるのが片思い乙女組だ。

クリエイティブな力を発揮し社会に貢献できたなら、サボり魔な彼女も立派な女子高生だろうに、

親の期待など、とことんふわふわ裏切るのが結衣の強みだ。


高校生をしていて良かったと思ったのは、好きな人に出会えたこと。

大人たちには呆れられるのだろうか。
いいや、恋愛脳みそであることは素敵な心だと信じたい。

なぜなら毎日こんなに楽しくて幸せなのだから、平和を広げるには、やはり恋愛のパワーが一番だ。